18:伝説の兜GET!
石竜が消えた場所に、金色に光る物が落ちていた。
先ほどまでは影も形もなかったものだ。もしかすると石竜の残骸かと思ったが、それは違った。
「――伝説の兜」
勇者に呟きに、ダームもメンヒも目を丸くする。
「つまり、石竜が兜になったってこと?」
「どうやらそのようですね」
伝説の兜と言われるだけあって、見た目だけではなく実際の強度も高いのだろうか。
気になってダームは、伝説の兜のすぐそばまで急いだ。
「勇者様、被ってみて」
しばらく兜に見惚れていたのか、ダームの声で我に返り、頷くカレジャス。
「わかってる。俺がどんなにかっこよくなるか見てみろよ」
そう言いながら彼は、今まで被っていた兜を脱ぎ取った。
そして、彼の長く美しい赤毛が存分に晒される。ダームはこれ以上ないほどに驚いた。
整った顔立ちに赤毛の長髪。それを見て彼女の中で一つの疑問が浮上する。
「もしかして……、勇者様って女の子だったり?」
「違うに決まってんだろ。こんな女いたら気持ち悪いよ」
即否定を受け、ダームはちょっと安心。
もしも女だったらドン引きだ。男でその容姿なのもドン引きだが。
「勇者様のお姿かっこいい……」
微笑ましげな視線を向けて、僧侶がすぐ隣へやってくる。こっそり「僕も最初は女性かと思ってました」なんてことを教えてくれた。
それはともかく、
「まだ被ってねえのにかっこいいって言われても困るぜ。じゃあ」
そう言って勇者が伝説の兜を手にする。
そのまま頭の上に持っていき、赤毛を中に収めた。
「装備完了! どうだどうだ?」
「うーん。あたし的には、装備前の勇者様の方が好きかなー」
ダームの一言にギョッとして、かなり心外といった顔をするカレジャス。
メンヒはそれを、「兜は似合っておりますよ」とフォローしていた。
正直な感想を伝えたのに何が悪かったのだろうかと、ダームは首を傾げた。
ともあれ一行は、伝説の兜を手にしたのである。
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「兜がどうとかの前に、勇者様は元々かっこいいから。そう気を落とさないでってば」
「お前なあ、どっかのお嬢様かよ。思ったことズバズバ言って、それで許されてきたのか?」
「だってお嬢様だったもん。今は違うけど」
ダームはくすくす笑う。カレジャスは「あ、そうだった」とようやく思い出した様子。
「僕はダーム殿の思った通りの言動をするところがいいと思います」
「でしょでしょ?」
そんな会話をして、少し和んでいる時。
「皆、調子はどうだろうか! さっきはすま……」
「きゃあ!」思わずダームは悲鳴を上げ、腰を抜かしてしまった。
振り返るとそこには大男の巨体。
洞窟の片隅に寝かされていたはずのクリーガァが会話に割り込んできたのだ。
「なんだ〜、戦士さんか。びっくりさせないでよね」
「すまない! 出来心で少しダーム嬢の驚く顔が見たかったのだよ!」
晴れやかな顔でそう言われると、なんだか憎めないのが戦士の強みだろう。
しかしカレジャスはかなりご不満なご様子で。
「クリーガァ、お前いつまで寝てんだよ。全然役に立ってねえじゃねえかこのポンコツ。お前から戦いを抜いたら、飯炊きと馬車の御者しか残らねえぞ」
恐らくクリーガァより軽く十歳は歳下であろうカレジャスが、どうしてここまで彼に突っかかるのかはわからない。が、まあごもっともな意見だとダームも思う。
「そうだな! 少しばかり考えなしな行動を取ってしまった! 反省し、次に生かすとする!」
対する戦士の方も軽く受け流し、笑っている。魔法使いと僧侶も、思わずクスリと微笑んでしまうような光景だった。
「それにしても石の竜が兜になりやがる……というより、兜が石の竜になる仕掛けを作ったのは誰なんだろうな? そんな魔法聞いたことねえぞ」
「伝説の装備を作り出し、来たる時のために封じたのは古代の魔術師たちですからね。その技術は失われ、マーゴ殿ですら解明できなかったくらいです」
口を挟むメンヒ。さすが大魔術師の息子とあってか、魔法にはかなり詳しいことがここ数時間で知れた。
「何はともあれ、勇者様の兜がGETできたし戦士さんも大丈夫そうで良かったね」
「そうだな!」
「ダーム殿のご活躍のおかげです」
「あんな程度のやつに俺が負けるわけねえだろ」
四人はそう言って、笑い合ったのだった。




