17:怪物退治!
部屋のど真ん中に居座るそれは、翼の生えた蛇――おとぎ話上の生物、翼竜とよく似ていた。
しかし本物の翼竜ではなく、素材は石だ。つまり、石像なわけである。
「どうして翼竜の石像がここに?」
「わからねえ。でもなんか怪しいな」
しばらく石像を見つめていたが、一向に何も動きがない。
その時、戦士がこう言い出した。
「きっとあれはただの装飾品だろう! きっとあの石像の裏にでも我々の求めるものがあるはずだ! 躊躇している時間はない!」
そして石像に近づいていったクリーガァ。直後、異変が起きた。
今までじっと不動だった石像の瞳がカッと見開かれ、赤い光を宿したのである。
「危ないっ」
何か危険を感じてダームが叫んだと同時、クリーガァの巨体が軽々と吹き飛ばされていた。
「グァァァ――!!!」
硬い尻尾をしならせてこちらを見下ろす翼竜。それはもはや、石像などではなかった。
生ける石竜なのだ。
「身構えろ! 来るぞ」
突然のことに呆気に取られつつも、カレジャスは急いで剣を構えた。
メンヒが地面に倒れるクリーガァの元へ駆けていく。
ダームも黒いローブを翻し、勇者のそばへ。
「勇者様、どうしたらいい?」
「とにかくこいつは魔物だ。どうにかして倒すぞ」
その瞬間、石竜が咆哮を上げた。
翼を広げ宙に舞い上がる。そして尻尾を鞭の如く振り回しながら、こちらへ迫ってきた。
「『ファイアーβ』!」
叫び、手のひらから火の玉を放つ。
翼竜へとまっすぐに飛んでいった炎。しかしそれは届く寸前でかき消されてしまった。
それを成したのは、石竜の凄まじい鼻息である。巻き起こった風にダームは逆に押し負け、後退りしてしまった。
「俺が倒す。お前は化け物の目を引け」
「了解!」
カレジャスとダームは声と同時に一気に離れる。
ここが魔法使いの腕の見せ所。存分にぶっ放してやろう。
「『アイスΓ 氷結』っ!」
詠唱と同時に部屋の温度が一気に下がる。
氷の薄皮が石竜の体を覆い、そのまま固めてしまうのかと思われたが、「グォォォ!」と悍ましい声で吠え、氷の鎧を全て破った。
「ダメだ。どうしよう」
次の手を考えていると、背後から声が。
「ダーム殿。クリーガァ殿の治療、終わりました」
「僧侶くんお疲れ様。危ないから離れてて」
メンヒとクリーガァは洞窟の大穴の片隅に縮こまっている。
治療が終わった以上、彼らがここにいる必要はない。クリーガァは全身打撲で今の戦闘は明らかに不可能だったし、メンヒも攻撃力ゼロだからいても仕方ないのだ。
「大丈夫です。……もしお困りでしたら作戦があるのですが」
彼の言葉に、ダームは一瞬驚いた。
そしてしばらく考えてから頷いた。
「じゃあその作戦、教えて。あたしやってみるから」
* * * * * * * * * * * * * * *
「左に飛んでください! そこでアイス!」
「『アイスβ』!」
氷の杭が石竜の体に打ち込まれ、弾き返される。それでもいい、続ける。
「今度はファイアーで周囲を囲んでアイスで攻撃、尻尾の動きを封じてください」
「わかった! 『ファイアーα』、『アイスΓ』ぁ!」
今、ダームはメンヒの指示に従って動いている。
彼の作戦の内容は、メンヒとダームの連携プレイだった。一つ間違えばかなり危ういが、メンヒの指示は全て的確だった。
「そこでウィンドを喰らわせてください。できるだけ強力な魔法を」
強力な魔法と言われて、ダームは一瞬躊躇う。
実は、魔術師マーゴに教えられて、まだあまり使うなと言われていた魔法がある。
しかし今使ってしまおうと決心した。
風系の魔法の最強魔法、それは――。
「『ウィンドΩ』!」
叫んだ瞬間、あらゆるところから暴風が生み出され、洞窟中に嵐が巻き起こった。
そのあまりの強さにダームの体が壁に打ちつけられる。背中が痛い。
「これが最高級魔法の力……。僧侶くん、大丈夫?」
「はい。一応」
強風に転がされたメンヒだが、なんとか無事のようだ。
翼竜ですらあまりの突風に翻弄され、ぐるぐるぐるぐる回っている。そしてその隙に、
「勇者様、お願い!」
「いちいち言われなくてもわかってら。……ったく」
大嵐にも負けずにいたカレジャスが、回り続ける石竜の背中へと跳躍する
常人なら一秒足らずで振り落とされるところを必死に堪え、彼は剣を抜いた。
「これでどうだよ」
鋭い剣から眩い閃光が走り、稲妻が石竜を二つに割る。
轟音のような絶叫が響いた後、石竜の中から光が溢れ出し――。
そして光が消え、視界が晴れた後ダームたちは唖然となった。
だって石竜がいたその場所には。




