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 ダームには話を聞いた時、ふと閃いたことがあった。

 もしも伝説というものを知っている人間がいるならば、それは子供なのではと。


 子供の寝物語ではよく伝説が語られる。

 大人が忘れてしまうそれを、子供なら覚えているかも知れない。そう思ったのだ。


「そしてやって来ました広場には、誰もいないんだよなあ」


 活気のある街とは対照的に、公園には誰もいなかった。

 一人くらいは子供がいそうなものだが……、と探していると。


「――あっちです」


 ベンチに一人で腰掛ける少女をメンヒが見つけ、指差した。

 栗毛を頭上で巻いた、ちょっと可愛らしい少女。ダームは彼女に近づき、声をかけた。


「あなた。ちょっと聞いていいかな?」


「…………」


 しかし沈黙が返ってくるだけ。

 後からどすどすと勇者がやってきて、乱暴に少女の肩を叩いた。


「この女の言葉が聞こえてねえのか? 答えろよ、話があるんだが」


「…………」


 ダームは思わずドギマギしてしまう。

 他人から無視される経験なんて今までなかったからだ。そんな人間は命知らずだった。すぐに首を刎ねられる……わけではないが、かなりの無礼であるからだ。


 が、公爵令嬢としての地位を失って異国にいる今、文句は言えまい。さてどうしたものか。


「どうして黙っていらっしゃるのですか?」


「しゃ、喋りかけない、でよ……変態」


 歳はまだ十二に達するかどうかというくらい。そんな少女から『変態』とのワードが飛び出して来たので、ダームたちは皆驚いた。


「か、兜の人が一番怖そうだ、し……。お、お母さんに、知らない……人とは喋っちゃいけません、って」


 ビクビクとした様子で彼女が漏らした言葉を聞いて、困り果ててしまう。

 こんな様子ではまともに話も聞けない。


「他のやつ当たろうぜ。こいつと話してても埒が明かねえ」


「ちょっと待って勇者様。せっかく会えたんだから」


 ダームはなんとかならないかと思考を巡らせる。そして思わず、「あっ」と声を上げた。


「どうしたんですか、ダーム殿」


「いいこと思いついちゃったの。まあ見てて見てて」


 そして彼女は、少女にグッと顔を近づけて言う。


「お願い。どうしても話してほしいことがあるの。もし言ってくれたら、いい物見せてあげるから」


「い、いい、物……?」


「そう。きっと喜んでもらえると思うんだけど」


 栗毛の少女は俯き、惑うように目を泳がせた。後もう一押しが必要なようだ。


「わかった。じゃあ、あたしの『いい物』が気に入ったらでいいよ。それで大丈夫?」


 少女はあまりこちらに絡みたくないようだったが、いい物は見たいのかしてやっとこさ頷いてくれた。


 ダームは早速準備を整える。背後で控えるカレジャスとメンヒは、彼女が一体何をしでかそうとしているのかと訝しげな目で見つめていた。けれど時期にわかるだろう。


「さあ、今からすっごいことが起きるよ〜。早速いきます、『ウインドΓ 浮遊!』」


 ダームが高く叫んだ瞬間、彼女の体がふわりと宙に浮き上がる。

 そのまま天へ吸い込まれるように登っていき、やがて停止した。


 下の皆の息を呑む様子がわかる。ダームも浮遊を外で披露したのは初めてのため、これほど高く飛べるのかと驚いていた。


「魔術師さんに感謝しなきゃ。お次は『アイスβ!』」


 詠唱と同時に地面から無数の氷が突き立つ。もちろん少女や仲間たちに当たらぬよう、取り囲む形で。

 そこに降り立つとダームは、氷の上を滑り出した。


 漆黒のローブをひらめかせ、長い金髪を弛ませながら舞を披露する。下の三人が呆気に取られている隙に、


「『ファイアーΓ』!」


 突然に生じた炎が燃え盛り、氷の壁を一瞬で焼き尽くす。「『ウィンドβ 浮遊』!」で瞬時に壁から離れ、中心点に舞い降りた。


 氷の壁はまもなく水になり、炎もやがて消える。

 最後に天へ向けて、


「『アイス&ファイア&ウィンドΓ』!」


 氷炎の嵐が吹き荒れ、竜巻のように空をうねり回る。やがてそれも止み、ショーは幕を閉じた。


「これで終わり。あたし、魔法使いなの。驚いた?」


 栗毛の少女を振り返る。

 彼女はその瞳に色々な感情を渦巻かせた後、一言、


「……す、すごい」


 と言葉を漏らしたのである。



* * * * * * * * * * * * * * *



「それにしてもあれはやり過ぎだろ。死ぬかと思ったぞ」


「大丈夫だって〜。手元狂わなきゃそんなことないない」


「手元狂うのが怖いんだろうが! ちっ、この女は」


「でも本当にすごかったです、ダーム殿。さすがマーゴ殿が認められただけあります!」


 ……そんな会話はさておくとして。

 肝心の少女は狙い通り、安心をしてようやく口を開くようになってくれた。


「探し、物?」


「そう探し物。実はね、あたしたち旅をしてるの。それで、伝説の剣の噂、知らない?」


 ダームの問いかけに、少女は目を見開いて――。


「し、知ってる……かも」


「え、本当!?」


 少女が話してくれた内容は、この街から北東へ行ったところ、そこの洞窟にあると聞いた、とのことだった。


「く、詳しくは、知らない。けど……、案内できる、かも」


 彼女は一度、その洞窟の前まで行ったらしい。

 案内してくれると言ってくれると、とても心強かった。


「ありがとう! すっごく助かるよ。お願い」


「う、うん。……さ、さっきはごめん、ね。変態なんて」


「いいのいいの!」


 そして少女は、名乗ってくれた。


「わ、わたしは、フィーユ。ま、魔法使いさんのお名前、は?」


「あたしはダーム。よろしくね」


 こうして吉報を手に戦士の待つ馬車へ戻った一行。クリーガァは「さすがダーム嬢!」と喜んでくれた。

 洞窟までそんなには遠くないらしいので、今から行くことになった。


「ば、馬車に乗せてもらって……いいの?」


「いいに決まってんだろうが。近いって言っても歩きじゃしんどいだろ」


「う、うん……」


 準備は整った。馬車はダーム、カレジャス、メンヒ、少女――フィーユの四人でぎゅうぎゅう詰めだが、これは我慢する他ない。


 ぐずぐずしている暇はない。昼を軽く過ぎてしまっているのだ。


「よし、ともかくハンデルを後にして、洞窟へ出発〜」

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