13:馬車にて
カラカラと車輪の回る音が鳴り響く。
ダームはぼぅっと車窓の外に流れる景色を眺めていた。
「ダーム殿、何を考えていらっしゃるのですか?」
突然に声をかけられて、彼女は振り向く。
すぐそこにメンヒの童顔があった。
「いや別に。ちょっと昔の思い出に耽ったり色々ね」
「思い出? 王国のお嬢様であった頃のことですか?」
「そうそう。母様と父様、どうしてるかなって思ってたの」
王国を追放されてから、半月ほど経つであろうか。
今頃父母はどうしているのだろう。冤罪を着せられたにせよ、名が穢れた娘を持った身は楽ではなかろう。
もしや何か罰を受けているのでは、そう思うと気が重くてならなかった。
「気にすることはねえだろうよ。親はお前を捨てたんだろ?」
カレジャスがそう口を挟んでくる。
が、ダームは彼に強く反論した。
「あたしを捨てただなんて。……母様と父様はずっとあたしに優しかったし、想ってくれてた。例え一回見放したんだとしても、絶対にあたしのことを考えてくれてるよ。今でも」
だって両親は、とてもダームを愛してくれているのだから。それを彼女は知っている。
「そうですよ。カレジャス殿、今の言葉には賛同できかねます」
「へいへい。今のは俺が悪かったよ」
メンヒのフォローもあり、話はすぐに鎮まった。
胸のモヤモヤはあるが、今はそのことは忘れるとしよう。
ダームはあえて話題を変えた。
「ねえ、次の目的地は?」
彼女の問いを受け、ガサゴソと鎧の隙間から世界地図を取り出した勇者。そしてそれを広げて覗き込む。
「この小山を越えりゃ東の国に入るぜ。ま、もうじきだろうよ」
「そっか」
車窓から覗くのは緑色の木々である。ここは南の帝国と東の国を繋ぐ低い山なのだ。
「東の国も楽しみだなあ」
「そうですね。僕も帝国外へ出向いたことは初めてなので、内心少し嬉しく思っています」
少年らしい笑顔のメンヒと一緒に、しばらく東の国について語り合った。
商業が盛んな国だと聞いている。
王国で製造した物の多くは東の国へ売られているのだと、ダームの父も言っていた。
西の王国とも、南の帝国とも全然違う。一体どんな場所なのだろうと、ダームは思う存分想像を膨らませた。
そのうちに馬車は下山し、景色が開ける。
御者台からチラリと顔を覗かせた戦士クリーガァが言った。
「さあ、皆、長い道のりだったがついに到着した! この先から東の共和国に突入する!」




