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12:いざ、冒険の旅へ!

「ちっ。あの魔術師のおかげで馬車も買えたし魔法使いも手に入れられたしで色々助かっちまったな。帰ってきたら礼とか言うのめんどくせえ」


 立派な馬を撫でながら、カレジャスがそんなことを漏らしていた。

 ここはマジーアの街郊外。


 魔術師マーゴの支援で馬車を手に入れ、今は旅の準備中。

 馬車に乗って行けば、徒歩の五倍は早く進める。ずいぶんとこの先の旅路が楽になるだろう。


「いいじゃんそんなこと。で、誰が御者するの? 召使でも呼ぶ?」


 ダームは家柄上、馬車に乗ることは多かった。

 その場合大抵は召使が御者をしてくれる。見たところ近辺に召使はいないが、探せばすぐいるであろうと考えた。

 しかし、


「御者はもちろん私だ! この国に召使などという制度はないのでね!」


 元気よくそう言ったクリーガァに、ダームは目をひん剥いて驚いた。


「戦士さんが御者? でもそんな大きい体で大丈夫なの? 御者さんってもっとスマートな……おほんおほん。なんでもないなんでもなーい」


 うっかり体型のことを言ってしまいそうになった。レディとしての恥なので、反省しつつ誤魔化す。


 戦士によると「問題ない!」との話なので、それ以上は気にしないことにした。


「ええっと。僧侶くんは何してるの?」


「僕は旅の無事をお祈りしているのです」


 頭を深く下げ、何やらぶつぶつ呟いているメンヒ。お祈りは王国であまり一般的ではない風習だったので、少し興味深い。

 だがそれはそれとして、ダームはカレジャスの隣へ。


「馬洗い、手伝おうか?」


「いらねえよ。女はそこらへんで踊ってろ」


 すぐに拒絶されるものの、ダームはそう簡単には諦めない主義。

 馬を洗う機会なんて公爵令嬢の時は持てなかったので、やってみたいのである。それに自分だけ何もしないのは嫌だった。


「舞踏会でもないのに踊らないよ。……ねっ、お願い」


「うっさいな。わかったからちゃんとしろよ」


 魔術師から譲り受けたのは、黒くてツヤツヤした雄馬。

 非常に健康そうで、どことなく気品が感じられる美しい馬だ。


「可愛いね。男の子だからかっこいいの方がいいのかな? ともかく馬くんを綺麗にしてあげまーす」


 ブラシで擦ったり水で洗い流したり。

 想像以上の重労働に手が重い。でもこれをしないと、勇者パーティーの仲間入りを果たしたとは言えないだろう。助け合ってこそ仲間だから。


 すっかり終わった頃には、ダームは疲れ果てていた。


「きっつい。腕がパンパンだよ〜。


「お疲れさん。ほらよ」


 勇者に渡されたのは、適当な昼食。

 名前をなんと言うのかは知らないが、米を丸い形で整えて中に梅干しが入った食べ物だ。

 こんな下級料理でも、今の彼女にはとても美味しく感じられた。これこそが巷で聞く、労働の喜びに違いない。


「お祈り完了しました」


「私も準備万端だ! では行こう!」


 戦士が御者台に乗り込み、ダーム含め他三人は馬車の中へ。

 座り心地は少し硬いが、贅沢は言えまい。これで充分だ。


「じゃ、そろそろ出発すっか」


「そうだね」


 賑やかなマジーアの街を走り抜け、馬車はまだ見ぬ先へ向かう。

 ダームはこの先の旅に思いを馳せるのだった。


「楽しい旅になればいいな」

これで第一章終了です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第一章まで読ませて頂きました。 王子も嫌な感じがしましたが… 下男。どんな条件で引き受けたのだろう?ただ性格が悪いだけに感じました。 両親も娘を道具としか思っていないのでしょう。 公爵令嬢…
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