王宮の一室
ここは、ユミル王国アサラ宮殿の一室。宰相殿と大臣殿が、双六という盤戯に夢中になっています。これまでの雪辱を晴らそうと、珍しく大臣殿が優勢です。そこで宰相殿、揺さぶりをかけるべく大臣殿に話題を振ります。
「実は、ユルシュマーリ殿下のことなのだが・・・」
「ユルシュマーリ殿下とは、確か王弟グラナート大公のご令嬢かと・・・?」
大臣殿は、滅多に聞かない皇族の名前を宰相殿が口にしたので、少し困惑気味です。
「うむ。実は殿下は少し個性的であらせられる・・・」
「個性的とおっしゃいますと?」
大臣殿、やり取りを交わしながら冷静にコマを進めていきます。
「うむ。大層、龍をお気に召しておられる。そんな折、側近の誰かが伝えたのか、例の訓練校の噂をお聞きになったらしい・・・」
(そういえば、入学の式典で大勢の生徒が龍を見たとか、という話があったな)
宰相殿の話に、盤面から意識が離れていく大臣殿・・・。
「それでだな、自分も龍を御してみたい、と申され訓練校に足を御運びになった・・・」
「なんと!」
大臣殿、かろうじて「物好きな」、という言葉は口にせず胸の内に納めます。
「まあ、龍を御す術など、神々でもご存じないこと。先方でも断ったらしい」
「なるほど。それに、民間の訓練校に大公ご令嬢が通うなど、聞こえもよくありませんな・・・」
大臣殿、ほっと息をつき飲み物の杯を口にします。
「そこで相談だが、理由を聞かず、殿下が3月だけ訓練校に通えるよう取り計らって欲しい・・・」
「は?」
宰相殿、相手を油断させておいてからの懐への踏み込みで、大臣殿を巧みに揺さぶります。
大臣殿は、双六盤を前に、カラカラと賽を振りながら、ついつい頭を悩ませてしまいます。あの訓練校には両殿下が密かに学ばれておられる故動きにくい・・・。
ふとルドラ殿の顔が思い浮かびます。開校の件では多少なりとも便宜を図ったし、今度はこちらも頼みやすい。波風を立てぬよう気を付けながら、ルドラ殿と話をしてみるか・・・。
結局、今回の双六の勝負、もつれにもつれましたが、宰相殿の揺さぶりを躱し大臣殿が久々の勝利を得ました・・・。しかし、大臣殿は問題を抱え、うれしさも半分です。
次回、歴史の授業、です。