四等星のファンファーレ(2)
二階の四組の窓からはグラウンドを見渡すことができる。上から見るグラウンドと、実際にグラウンドに立つのとでは広さがまるで違う。
眼下では野球部、陸上部、サッカー部が一つのグラウンドで窮屈そうに走り回っている。狭いグラウンドだからこそみんな一生懸命練習していて、二階から見ているというのに額や首筋に汗が滲んで見えるようだ。部活をやっている奴らは、みんなそれだけでなんだか輝いて見えて、遠い存在のような気がする。
お、危ない。野球部が打った球がサッカー部の隆也に当たりかけた。気を付けろよ、隆也は二年でエースなんだぞ。隆也はすぐに練習に戻り、二、三人のディフェンスを悠々と抜き去り、颯爽とゴールを決めた。うちのサッカー部は今年の夏、全国に出場したらしい。すげぇよな、全国だもんな。どのくらい練習したんだろう。
何してんだよ日比野! 早く行こうぜ!
子どものような声が空から降ってきた。大きく流れる入道雲が太陽を隠す。それと同時にオレンジ色のきれいな夕立が勢いよく降り始めた。さっきまで必死に練習していた運動部たちも、一斉に引き上げ始める。
「仲村さん、テストどうだった? 」
自称「 進学校 」を謳ううちの高校は、夏休みが明けてすぐにテストが行われる。一応「 文武両道 」を掲げてはいるものの、先生たちは偏差値を上げることに全力を注いでいる。俺たちの高校生活の青春なんて、先生たちは知らない。夏休み明けすぐにテストを行うのも、学年でテストの順位を張り出すのも、危機感を持たせるための先生の戒めだった。
実際にテストは難しく、ノー勉で高得点をとれるほど甘いものではなかった。テスト返しの日なんかは悲惨なもので、テルシマみたいに別の惑星にいるような涼しい顔をしているやつもいれば( 点数はまぁ、うん、そういうこと )、世界が滅亡するような顔で祈っているやつもいる。
「国語が、よかったの。 」
掃除の手をピタッと止めて照れくさそうに言った。夜のような黒髪が、窓から流れてくる風に揺られて靡く。仲村さんの言葉には無駄がない。いつも言いたいことだけをきれいに浮き上がらせて残していく。
「仲村さんほんっと国語得意だね。 」
「ええ、国語好きなの。 」
仲村さん国語好きなの?見た目通りじゃん。やばいとか絶対使わないんだろうな。
「日比野は? 今回は絶対にいい点取るんだって言ってなかった? 」
今度は俺の掃除の手が止まる。そう、今回は絶対にいい点を取らないといけなかった。いや、とりたかった。