表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いっせーのーでっ  作者: 空井八
1/3

四等星のファンファーレ(1)


 仲村さんは夜みたいに長く、黒い髪をしているからどこにいても仲村さんだとすぐにわかる。うちの高校は髪を染めているやつが多いから、昼間なんかはよく目立つ。そんな中で仲村さんは本当に夜のようだった。


 俺は窓枠に肘をついてぼんやり空を眺めてたりしていた。蝉の鳴き声が絶え間なく流れてくる。夏休みが終わったあとの放課後の空は、青よりオレンジが多い気がする。高二の夏休みも熱い恋はなかったし、世界が変わるような冒険があったわけではなかった。俺は大学に行くつもりだから、人生で夏休みがあと五回しかないことを考えると少しゾッとする。


「何してるの日比野。掃除終わらないんだけど。 」


 掃除をサボっている俺を、仲村さんは早速叱った。教室では掃除の係じゃないテルシマとその他二人が机の上に座って、大きな声で盛り上がっている。この間ミカがさー、と愚痴を溢すテルシマに、その他二人が浮気はないわー、と絶妙なタイミングで相槌を打つ。

 今日は三回目かな?仲村さんに叱られるの。あれ? 少なくない?


「いやぁー、きれいだなーと思ってさ。仲村さんの黒髪。 」


「外見てたでしょ。馬鹿じゃないの。 」


 くるっと振り返ると、仲村さんは柄の長い箒を持って丁寧に掃除していた。グレープフルーツの苦い部分だけを眉間に集めてこちらを睨んでいる。夜といっても仲村さんは冬の夜くらい冷たい。嫌われてんのかな、俺。嘘、そんなこと思ったこともない。


「ずっと気になってたんだけど、日比野はなんで茶髪にウェーブなの? 」


 サッサと箒を揺らしながら静かに訊く。仲村さんが箒を使うと、箒が夜のススキのようできれいだ。え、ていうかほんときれいじゃない?仲村さんの黒髪。


「いいでしょ!? 菅田将暉みたいじゃない?! 」


 誰に似ているかなんて訊いてないんだけど、と冷たく言って集めてたゴミをちりとりで集め始める。仲村さんが今日も冷たい。うん、平和な一日だ。


 窓の近くにかけてあった箒を手に取って俺も掃除を始める。同じ箒を使っているはずなのに、俺の箒は仲村さんの箒ほどきれいに見えない。仲村さんが箒を持つと箒も仲村さんもきれいに見えるのに、俺が箒を持つと掃除を習いたての小学生にしか見えない。


 窓の外を見る。入道雲が、大きくゆっくり流れていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんか、読んでいて良い気持ちになった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ