01. これで何度めだろう
「おい、ルティ!うちのPTには、お前の居場所が無くなった分かるよな」
リーダーの剣士が面と向かって話しかけて来た。他のメンバーもコッチを睨む様に声を上げる。
「君は本当に治癒師なのか、それだったらヒールの一つや二つぐらい使えてもおかしく無いよね」
もう一人、女性アーチャーもこちらを見据え話し出した。
「君はなに?回復も出来ない治癒師とか使い物にならないわ。それに毒なんか毒消し草で十分だしね」
治癒師でありながら、何故か回復魔法であるヒールが使えない。
もしかしたらクエスト的なもので開花するのかも知れないが分からない。
使える魔法と言えば、状態異常を回復する魔法だけしか使えないのだから役立たずと言ってよい。
「ルティ、この前買ったアイテムや装備はPTの物だ置いて行ってくれよ..」
その言葉の後に他のメンバーらの笑声が聞こえて来た気がした。
反射的にゲーム画面の退場ボタンを押しゲームを止めた。
これで何度目だろう。
始まりの町から2.3先に行った町なのに、使い物にならない自分の能力に嫌気がさす。
ソロでゲームをするのは簡単だがレベルが上がらない、だったら一緒に旅が出来る仲間であるPTを組むのが妥当である。
自分で言うのもアレだが、回復サポートも出来ない治療師とか要らないでしょ。
「このゲーム「セブンサーガ」は設定が独特で細か過ぎて分かりにくかったのもあるけど、キャラ設定に何時間も掛けたから愛着がある」
(作成が1キャラだけとか、最近のゲームとしてはあり得んでしょ)
お互い何歳か分からない奴らとネットゲーをし、第2の自分を作りストレス解消と称し時間を潰していた。
そんな俺も45歳を超え、世間一般では子供がいたり結婚していてもおかしくない。
昔からゲームやアニメなどが好きなオタクだ。
オタクと言っても、フィギュアやプラモやポスターを貼る趣味はない。
純粋にゲームとアニメが好きなのだ。
そんな事を考えながら、冷蔵庫からビールを取り出し口に運んだ。
「ふぅ、うめえ」
数年前まで家ゲーなどをしたり大会などにも出ていたが、やるゲームが無くなりPCに流れて来た一人だ。
特にRPG・SLGなどが好きでオンラインゲームのやり込み要素などが、ハマっまった原因の一つかも知れない。
(このゲームは当たりと思ったのにな..)
そんな事を思いながら、ビールを呷りながらツマミが無い事に気づく。
それならと近くにあるコンビニに行って、ツマミとギフトカードを買う事にした。
嫌な時はガチャを引く、これが長くゲームを続けるストレス解消法と言ってよかった。
三種の神器・Sレアやレジェンド目的では無いが、外れても色々なアイテムが出るのが楽しい。
それに買ったぜ感が自分をリッチにさせてくれる。
(さてツマミモ買ったし家に帰ってガチャでも引くかな)
そんな事を思った時だった。
女性の悲鳴が聞こえたと思うと白い光に包まれた。
キッキッー!ドカン!
どれぐらいの時間が経ったのだろうか?
(ここは何処だ)
爽やな風が頬に当たる。
気付けば小高い丘の草原に寝そべっていた。
それから幾月かの時が流れ..
「ルティ、お前とのPTは解消だ。もう少しお優しい所に行くんだな..」
(これで何度目だ?)
この世界はオンラインゲーム「セブンサーガ」に似ては居るが、似すぎた為か自分の職業が治癒士のままだった。
それも状態異常回復魔法しか使えないヒーラーとか..
あと驚いたのは年齢だ。
45歳を超えたオッサンだったが、30歳も若返り15歳と言う年齢になっていた。
所謂、異世界転生と言うものだ。
(ふつうは異世界に来たら無敵・経験値倍増とか、チート系勇者になるのがセオリーと思っていたが現実はどうだ)
ネットゲームの職業の治癒師のままで、それも状態異常の回復魔法しか使えない、チートどころかゴミ職業。
PT戦では回復が出来ないからヒーラーとしては役に立たないし、補助魔法系メンバーとして置いて置くほど玄人PTとか存在しないしね。
鬼畜仕様の治癒士とか..
「だったらどうする?」
ルティはヤケクソの様に声を上げた。
街道の先には森があり、その場所には毒の沼が点在し誰も寄り付かない魔の森があった。
なにかを決断した様に、ルティは魔の森の方に歩みを向けた。