ハンマー女と厨二女
「……六原? 」
「 ……悠理? 」
黒色のブレザーと灰色のミニスカート。3年前を最後に姿を消した幼馴染が、小6の卒業式を最後に、消えた彼女が目の前の机に座っていた。
小6の頃、彼女は身長がクラスでも1番低かった。さらに、短絡的で短気な性格だったので子供だった俺でも、彼女を子供扱いしていた。
そんな彼女がとても魅惑的な美貌と大人びた雰囲気でそこにいたのだ。なぜ気づけたのか、今思うと不思議だ。
「 え…… 」
「 お…… 」
「 いや、そういう事じゃねえよ!! 」
シンとした。流石に3年ぶりの再開直後にはそこまでコミュニケーションを取るのは難しかった。
六原の頬は熱を帯びていて、再開を喜ぶよりも先に自分がこのクラスにいることが知られて恥ずかしそうな顔だった。
「 何で悠理が? あなたこの学校に来る程の馬鹿じゃなかったでしょ。 」
「 それを言ったらお前だって! 幼稚な奴だったけど勉強はそこそこ出来てたじゃん。 」
「 幼稚は余分! 」
「 ……もしかして。 」
俺がそう言うと、向こうも俺が言わんとしたことを察する顔をした。道理でおかしいなとは思った。
「 悠理も……あれに呼ばれたかんじ? 」
「 ……あれに呼ばれた感じ。 」
すると、にんまりとした笑顔が浮かんだ。
「 やった!! 遂に仲間がいたよ。 」
素早く握手を交わされる。
「 よろしくね!! ほんとに同じ境遇の人が居ると苦しさが半減されるよ。 」
「 お……おう、よろしく。 」
笑顔は見せなかったが、実の所は嬉しかった。
自分と同じように良識のあり、話の分かる人間はここには1人も居ないと腹を括って来たので、随分と気が楽になった。
だが、やった~これから頑張ろーや。なんて簡単に話を進める訳には行かなかった。俺にはどうしてもこいつと馴れ合うには飛び越えなければならぬ轍があった。
深呼吸してさっきまで無かった緊張をほぐす。
「 お前、なんで突然居なくなったんだ。 」
そう言うと、彼女の笑顔は引きつった。そして、無理な笑顔ではにかむ。
「 突然じゃないよ。なんで……て卒業式の時話さなかったっけ。小学校6年の頃、ダンスを見込まれてダンスが有名な名門私立中学に通うって。 」
「そうだけど。あの時お前──」
すぱあああぁん!
思いっきりドアが床に押し倒される。
耳が痛いような、轟音が俺達の集中を寸断させた。
そこには黒い髪の肌白な女性が立っていた。グレーのカーディガンともふもふのマフラーを巻いたその少女はとても大人しそうな顔だ。インドア系の美少女て感じだ。
右・手・に・あ・る・ハ・ン・マ・ー・を・除・け・ば・全てが真面目そうだ。
ええええ。
俺と六原はひたすら黙っていた。微動だにできない程の凍りついた空間に、いつの間にか形成されていた。
すると、突如彼女はこちらへ突進してきた。
「 ぇぇええええ!!?(ぇぇええええ!!?) 」
俺と六原は同時に叫んだ。
大きなハンマー(俺の身長の半分くらい)の振りが俺の頬を掠る。そしてそのまま、それは思い切っきり教卓を殴打した。
衝突音は凄まじく、その轟音にはっきり鼓膜を振動させられたのを感じた。本当に大砲でも打ったかのようなごつい音だ。
俺と六原は恐怖で窓際にひたすら後退することしか出来なかった。
焦りと動揺で頭が真っ白になってとりあえず、なんの繕いもない本心がままの命乞いをした。
「 ちょちょちょ!! ちょいと待ってよ君ぃ。いきなり暴力なんて良くないよ? 非暴力!! ね?? 」
教卓を尽く陥没させる程のハンマーを少女はなんのことも無く、肩まで持ち上げた。
そして、少女は壁のシミでも見つめるかのような目でこちらを真っ直ぐ見る。だが、俺達の姿など、見えていないように見えた。
証拠に、俺の言葉など、全く聞く耳持たない。
「 ちょっと悠理、何とかしてよ!! 」
「 無理だろどう考えたって!? 」
ハンマーが真っ直ぐ天井へ伸びる。完全に振りかぶっている。
声がもはや出ない。手脚が怖気に襲われ、次の攻撃を避ける力も入らない。
銃向けてくるキ〇ガイとマ〇オのピコピコハンマーみたいなの持ってる女子おなごがいるとか、この学校どうなってんだよ??
天井を差すハンマーは処刑を待つ断頭台のギロチンのようで、俺達の首を撥ねるのをまだかまだかと待ちわびているように見えた。
彼女の直黒な双眸が俺たちを捉えた刹那、ハンマーがそのまま垂直落下してきた。
「ほわァァァ!!!」
俺と六原は目を瞑つた。
(死ぬ前にひとつ。怖くて六原に抱きついちゃってること、どうか許してください)
「 待った!! 」
周章した素振りの足音と、取り乱した声が聞こえてきた。
助けか!? そうであることを切に願い、目を開けた。
ハンマーのヘッドが俺の目と鼻の先にあった。
ほわぁ……。
あまりの圧迫感に俺は怯むが、ふと思う。
もしそのまま振り下ろされていたら、どうなっていたか。
壁を背にしては満足に避けることも叶わなかった。少なくともこの、見て伝わる重量感からして、顔面は割るのは容易だろう。
女はハンマーを止めたまま、全く動かない。神妙な顔でこちらを見たまま、微動だにしない。
俺も六原も微動だにできない。
さっきの止めに入ってくれた女の人が近寄ってきた。
「ごめんなさいね。……この阿呆がまた随分と。
今度はハンマーの方とは、対称的で小麦色の肌とボーイッシュな髪型の女性だった。快活な笑顔をこちらへ向けて会釈する。
アウトドア系の美少女手て感じだ。右・目・を・隠・す・漆・黒・の・眼・帯・を・除・け・ば・。・
えぇ……。
俺は閉口する。この2人は絶対まともじゃない。
いやまあこの学校ならそりゃそうか。
ハンマー女も後ろの眼帯女の指示に従って、止めたままのハンマーを引く。
一時的に身の安全が確保された気がした、それと同時にこの以下にも怪しい胡乱な2人を問いただした。
「 なんなんだよてめえら!! いきなり凶器ブンブン振り回しやがって。 」
緊張感が解れて、口が滑ってしまうかのように言葉が出てくる。
「 ごめんね。悪気は無かったんだ。君もこのクラスの生徒だよね? ウチは戸塚=エスティナ=クロナテイルていうの。 」
「 え、なんて? 」
俺はつい聞き返してしまった。
「 あっ自己紹介足りないかな。"帝国魔法軍第11師団団長"戸塚=エスティナ=クロナテイルだよ。」
「 おっけい、よろしくな戸塚。 」
「 ちょっ! できればエスティナかクロナテイルで呼んでほしい。 」
「 長いしめんどくせえんだよ!! 」
言わずとも分かった。この2人はガチでこのクラスに入れられた奴らだ。
確信した。ここはDQNクラスだ。