地獄では足りないようです
悲劇の事件から約2ヶ月。
殆どの同級生が晴れ晴れとした笑顔(受験合格)で卒業証書を握りしめ、母校の校門をくぐっていく。
カメラのフィルターに映る皆の顔は何より輝かしい。
そんな中の帰り際、俺は人差し指を指されて影で囁かれていた。
「え!? あいつ偏差値70超えだろ? なんでそんなど底辺高校に。」
「知らねえよ。本人に聞いてこい。」
背後の方からそんな潜めた声が聞こえる。だが、俺に話しかけてきた人は一人もないかった。
多分、俺の抜け殻みたいに乾いた顔を見て、皆聞くのを躊躇ったのだろう。
さっき鏡で確認したが、自分で見ても酷い顔だった。
あれから数日間、受験する権利すら剥奪された俺は皆が入試行く日も、面接行く日も寝まくった。
なんでか知らんけどお母さんとかも俺が受験行かないことに疑問すら感じてない。
試しにお母さんに聞いてみたら――
「え? 受験はあんたがアカツキ帝王高校の特待制度に合格して、受験免除されたから行かなくても当然でしょ。」
はぁーー?! そんな事いつ言ったよ。なんで親の記憶改竄されてんだよ!!
そんな感じだったから全部どーでも良くなって寝まくった。
そして、とどのつまり。死んでんのか生きてんのか分かんねえ顔で俺は卒業式に出席した。
上の空と形容できるかわからんけどそんな感じで最後の合唱も終えた。皆で写真撮る時も冗談抜きで白目で映ってると思う。
「悠理……ありがとね! えっと……高校でも頑張れよ。」
って感じでクラスの皆も凄い俺にだけ気を使ってくれてた。心痛!!
更に。卒業式の後、先生に言われた言葉が今でも心に残っている。
「何があったのかは聞かん………頑張れよ。」
どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁぁ!!
圧倒的敗北感の中で俺は校門から家まで疾走した。
4月4日。
時は早々と移ろい気づけば私立アカツキ帝王高等学校の入学式だった。
朝のめざまし時計の悲鳴はいつもより耳障りなものに感じた。
そして、不愉快なのでチョップで瓦割りしてしまいそうな勢いで叩いた。
……天気は驚くほどの快晴。サイクリングするんだったらベストマッチって感じの空模様だ。
こういう日に限って頭は冴えてるは目も覚めてはで遅刻することも叶わなかった。
仕方なく、1週間前までに郵送で届いた制服をタンスから引っ張り出して腕に通す。
ネクタイ仕込みのいかにも私立って感じの制服だ。
この制服を着るのは初めてだ。制服が届いても、意固地になって1度も着ていなかったからだ。
……身の丈にしっかりと合っているのが逆に腹立たしい。
「行ってらっしゃい。」
「ん」
重い足取りで自宅を後にする。
皮肉にも家の前の河川敷に広がる桜は満開だ。下では写真を撮ってる人が居たり散歩してる人が居たりと盛況な賑わいだ。
俺の憂鬱さとは対照的に世間は色を咲かせてる。
……つうか、こんな底辺高校の制服なんて恥ずかしくて公道通れねえよ。
近所にあるエリート高校の制服が横切る度に思う。
「あー怠。」
校門に入った瞬間に軽く叫ぶ。来てやったぞ、感謝しろ。もう1億くらいはくれてもいいだろうが。
校舎は思ったよりも大きい。真っ白な校舎を覆う吐きダコのような滲みと凸凹。割れた硝子。うん、公式サイトの写真よりは明らかに酷い。
高校側もどーにかしろよ。まあ、その為に俺が来たわけだが。
それだけならまだ良かった。俺が怠、と思ったのは目の前に広がっている荒廃した光景が原因だ。
「1年生入学おめでとうぅぅぅぅ!! いええいやぁ!」
「Hooo!!」
何と、4階の全ての窓から50人くらいのヤンキー達が顔を見張らせ俺達を見下ろしているのだ。そのうちの一人が声高に叫んでいる。
1年生俺達は皆、上を見上げていた。皆表情はそれぞれ違えど、圧巻されて誰一人声も出さない。
「こんな底辺高校に来るなんて、君達一体どこで道を間違えたのかな?」
俺の横に居る1年生の群列は一気に複雑な顔をし始めた。とても傷ついたようにも見えた。
ほんと、その通りだ。初めて俺とおまえら馬鹿の意見が一致したな。
「ここの学校にはなぁ? 鉄則があってよ。1年生は先輩方には有り金全部出さなきゃ、入院送りなんよ。そのへんよろしくぅ!!」
「Hooo!!!」
「今から下に降りてくっから、定期以外のもんは全部俺らに献上しろぉ?」
「Hooo!!!」
「夜露死―――」
「うるせえよ黙れ!」
俺は鞄の中のエリート英単語帳をぺちゃくちゃうるさいヤンキーにぶち投げた。
ズゴォォォォ!! ドラム缶をバットで叩きつけたような音が生じた。
俺の英単語帳は見事うるさい顔面にクリーンヒットしていたのだ。
奴はそのまま俺らのアングルからは見えない教室の中へと吹き飛ばされた。
そして、そのヤンキーが天井にぶつかる炸裂音も耳に通った。
あれだけうるさかったこの学校全体が、一瞬で静まり返った。
あースッキリした。近所迷惑なんだよ考えろ。
「おい!! 京極。しっかりしろよ!!」
ヤンキーが驚きふためき一気に4階の奴らは引き下がっていく。
1年生は俺を見てただ唖然としていた。
俺が道を通ろうとすると、皆距離をとる。どいつもこいつも"なんだよこいつ"って感じで俺を見ていた。
俺はお構い無しで掲示されてるクラス表を見る。
「えーと、どこにあんだ? 俺。」
俺の名前はABCDEとは一線を画した場所に書かれていた。
1番左端。1年Z組。
通称"地獄"。
入学式はつつがなく進んで行き、1時間くらいで終了した。
高校の校長が壇上に上がり、簡単な挨拶と高校の大まかな説明をして……眠いからそこから先はよく聞いて居なかった。気付いたら終わってた。
あの時、俺に銃を向けて来た男は入学式にはいなかった。どこに消えたのだろうか、そんなことばかり考えていた。
教室に着くまでの間は――どうやってこの高校を"目的"の為に手中に納めるか。それだけをひたすら考えていた。
ネットで見たが、俺の入るクラスがこの学校でさえも常軌を逸しているのが分かった。
Z組。荒廃し、腐敗したその空間は"終末"とも歌われていた。
俺も少しは噂で知ってはいた。だが、この学校に、このクラスに、編入させられるなんて、大地が転変してもないなと思っていたわけだ。
居るのは異常者だらけ。そんな中に放り投げられた常識人の俺の能力では、あいつが言った目的など達成出来る筈もない。
だから、救済措置として――この学校協会に策を練ってもらったんだ。
「ここだな。」
喧嘩上等と落書きされたドアをゆっくり開いた。
……そこには金木犀色した上品な髪の毛の美少女が座っていた。際どいグレーのミニスカートに似合う細長い綺麗な脚はモデルのような出で立ちであった。
向こうは大きく目を見開き、ひょっとこのようなおかしみ溢れる顔で俺を見ていた。
「……悠理?!」
「……六原!?」
信じられない。3年前に消えた幼馴染が目の前で女子高生していたのだ。




