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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第十章・西播怪談実記草稿二【天文二十二年(1553年)~】
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12・西播怪談実記草稿二1-2

 

 同時期、五月中旬からは美作から尼子主力が離れた隙を狙って備前独立派も挙兵。すかさず備前国境から美作国高田城方面にまで攻勢をかけている。


 ならば、播磨国はどう動くか。

 

 赤松総領家としては播磨国内の親尼子派の力を削いでおきたい。そのために晴政は毛利氏を介して仇敵・山名氏とも連絡を取り合う。赤松と山名、互いが互いを嫌い合っているが故に、内情を含めた本音の会話はできないがそれでも間接的には互いの情報を入手することはできた。


 同年四月の段階で、毛利氏側から備後旗返城の江田隆連(えだたかつら)が尼子氏に降ったことを知らせたのは、同じ備後の国人衆・和智誠春(わちまさはる)という人物だと聞いている。


 和智氏と江田氏は隣同士の領地を持ち、同じ藤原北家、秀郷流波多野氏庶流の血筋を有する。

 同族の裏切りをよく知らせてくれたものだと晴政は思う。


 和智誠春は山名氏が備後守護を仰せつかって以来、長らく山名家家臣だったため和智氏の援軍として山名総領家当主・山名祐豊は少なくない数の兵士を備後国に送り込むだろうというのが毛利方の見解だった。


 しかし、晴政の考えは少し違う。


 山名祐豊は、尼子に靡いた同族の因幡山名氏・山名久通を滅し、自分の弟を因幡守護の座に据えた人物。


 そして、久通の死因は騙し討ちと聞く。


 但馬山名氏と因幡山名氏の主戦場となった立見峠では、今では鎧武者の霊が出ると言う。風雨が天を隠す嵐の夜、峠では大きな黒馬に乗った鎧武者が現れ、轡の音を響かせながら天高く虚空に走り消えるのを見た旅人が跡を絶たないと聞く。


 余程無念だったのか、この幽霊話は立見峠の怨霊伝説として現代まで伝わっている。

 

 もし山名祐豊という人間の本質が陰陽共に動く者であるならば、必ず腹にひとつ持っている。


 一筋縄ではあるまい。自分が山名であれば一番利する戦い方とはなにか。どの一手が西国全域における最大手となり得るのか。散々悩み抜いた末に、思いついたのが今回の播磨国侵攻という筋書き。


 但馬山名氏の立場として、毛利氏との約定がある為に尼子領を攻める必要がある。しかし、現在の戦局は大内・陶の軍勢に大幅に傾いているわけではないから、いきなり尼子軍主力を相手にするのは荷が勝ち過ぎる。今後の尼子軍の反撃次第では、形勢逆転も充分あり得る。


 そうなれば下手に尼子領を侵すのはかえって藪蛇となり良策ではない。


 ならば、何処かでお茶を濁す必要が出てくる。


 幸い、山名にはすぐ近くに積年の恨みを持つ播磨の赤松家が存在する。

 

 機会を伺い、仇敵の中に居る親尼子派の領地に攻めかかれば、毛利家相手に一応の大義名分を得る。万が一、備後戦線で尼子方が勝利したところで、元が赤松家家臣の領地ならばどうにかこうにか言い訳もできよう。


 両者に対しても立つ角が少なくて済む。これ以上の解はないのではないか。



【山名久通】

・元は山名(やまな)誠通(のぶみち)。尼子方に降ってからは尼子晴久より偏位を受けて「久通」を名乗った。


【立見峠の怨霊伝説】

Yuniko noteさま

https://note.com/yuniko0206/n/nae48804a3f31


・但し山名弥次郎という人物は一次資料には存在しない。

・また、高橋正弘氏の「山陰戦国史の諸問題」に記述がある通り、史料的には但馬・因幡の両山名氏が争ったという天文十七年の申の歳崩れも信憑性に乏しい。その為、高橋氏も含め山名弥次郎の伝説は誠通討ち死にの史実が変化したものではないかとしている説が存在している。

・他にも立見峠には「立見峠のおとん女郎」という化け名人の女狐が居たという民話が伝わっている。

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