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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第九章・西播怪談実記草稿一【天文二十二年九月十日頃(1553年10月17日頃)~】
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11・西播怪談実記草稿(三方西荘の戦い)4-2


 態勢を整え直した山名軍が再進撃を開始したのは二日後の朝。


 養父郡の増援と合流した太田垣勢は数の利をそのままに一挙に攻め寄せ、田路で陣を張る播磨勢を圧倒してみせた。しかし劣勢の播磨勢も引かず、負けじと細い間道に幾重もの(さく)と逆茂木を設置する遅滞戦術を取ることで、山名軍にも出血を強いる。


 両軍の戦闘は以降五日間にも及ぶ。


 播磨勢の防衛網を前にしても山名軍は足を止めることなく、初日の様子見が終わると、二日目昼からは但州勢が総攻め開始。盾と竹束をもって播磨勢の障害物を引き倒しにかかった。


 兵士達は格子越しに弓矢で狙撃し合うため、戦闘正面の狭い戦場では飛び交う矢の数がものを言う。残念ながら、今この場所に小林甚右衛門尉の姿はなかった。


 弓矢による消耗戦に持ち込まれると、地形も施設も倍以上の山名軍を押し留めるには手数が足りない。四倍とまではいかずとも三倍の兵力差となると、播磨兵が一人倒れる度に、一対六、一対九と個人への負担増え続ける。戦が消耗戦の様相を呈すると、途端に播州勢の人手不足が顕著になり始めた。


 だが、それは折り込み済み。

 七条勢も宇野勢も最初から独力で山名の軍勢を追い払えるとは思っていない。

 最初から己が主君の後詰めを期待して行動を起こしている。


 戦闘開始から四日目の夕方、播磨勢の防衛線は後退を繰り返し、あとは田路城を残すのみまで引き下がる。


 城門を前に押しに押し込まれ、死傷者の数も許容範囲を超えた頃、政範のもとには赤松総領家が三方西荘安黒まで軍勢を進めたという知らせが入った。


 待ち望んだ援軍に城内が歓声に湧くが、それも一瞬。


 伝令は赤松の本隊が播磨国境に留まりそれ以上北には軍を進めない旨を告げ、最前線の兵士らは言葉を失った。


 赤松家当主らの決断は無情にも転進。

 七条政範含め佐用勢に対しては、現在の田路陣地を放棄の上、佐用・上月の兵を束ねて三方西荘まで撤退。その際、田路の城からは、可能な限りの武具や馬、兵糧などの軍需物資を撤収させるように指示が出され、宇野の負傷兵は優先すべきではないとの決定が下されていた。


 理屈としては分かる。このまま山名軍と戦い続ければ貴重な赤松方の播磨国人衆を消費することになる。そうなれば結果的に出雲尼子氏が漁夫の利となる。赤松総領家は先ず尼子に属する者と播磨を侵す者どもを戦わせ、両軍の摩耗を狙いたいのだろう。


 感情としても分かる。自分としてもわずか半月前の出来事を簡単に水に流せるわけがない。


 尼子に降った裏切り者と(くつわ)を並べられるものか、同胞を殺した者共を誅せよという赤松家重臣の意思は根強い。彼らの憤りの声に赤松家当主としても反対できるものではなかったらしい。


「……既に決まった事ですから」 


 呆然とする政範を他所に、取り付く島もない様子で伝令は国境の本陣へと引き上げていく。


 こうなってしまってはどうすることも出来ない。主命とあらば政範には軍を引き下げるより他になく、撤退する七条軍を見送った後、宇野勢のみが単独で山名軍の猛攻に曝され続けた。


 戦いは熾烈なものとなったと伝わるが詳細を伝えるものは残されていない。


 伝承では、九月十七日夜の切り込みを最後に宇野勢も田路の地を放棄を決め、三方東荘の三方城まで更に戦線を引き下げ、越境してくる山名軍との戦闘を行ったとされる。


 播磨勢と但馬勢の戦いは九月の晦日まで。


 数度の小競り合いの後、氷ノ山の初冠雪が観測されたことで冬の訪れを知った山名軍は撤兵を決めた。この戦い、最後の最後まで宇野勢が待ち望んだ尼子の増援が播磨の地を踏むことはなく、播磨国内の親尼子派は急速に求心力を弱めていくことに繋がった。


 宇野一族による播磨統治の野望は、この山名氏との合戦によって一旦頓挫。休戦に向けて動き始める。

 

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