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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第八章・播州鬼騒動六【天文二十二年八月十二日(1553年9月19日)~】
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10・播州鬼騒動六4-2(菅生表の戦い)


「正満様、あれは小林甚右衛門尉殿です。なれば彼奴等めは宇野の手勢でしょう」


 烏帽子親だの烏帽子子だの散々言っておきながら、親が子を裏切るのは不義理ではないか。正満はわずかに動揺したが、それも戦国の世のことと総てを飲み込む。宇野殿への義憤はこの戦場を生き延びた後であればどうとも料理ができる。


 そして、小林甚右衛門尉の名には聞き覚えがあった。彼は弓の名手と聞く。


 正満も多少の野戦でも弓使いに心得があったが、確かに噂に聞くほどに甚右衛門尉の戦働きは凄まじい。彼がすっすと弓を引けば、たちまち楼上の七条兵が射抜かれ、標的を射抜いた後は素早く物陰に隠れ、こちらに射線を絞らせない。


「……敵ながら、見事なものだ」


 結果、甚右衛門にだけ気を取られれば、今度は他の敵兵の接近を許すことになり、彼から注意を外せば味方を失うばかり。このままではいかんと、正満ら四、五人の弓に覚えが有る者のみが矢を番え、甚右衛門尉に狙いを定める。


「放てっ」


 その内の一本、正満の矢が甚右衛門尉の八間の筋兜を捉えたが、器用に上半身を反らされ、矢は明後日の方向へ流される。


 仕留め損なったお返しとばかり、甚右衛門尉が数瞬で狙いを定めて矢を放つと、弓を持っていた正満の左腕を鷺羽の矢が貫通する。


「ぐぉ……」


 突然の激痛に思わずくぐもった声を漏らす正満だが、まだ戦線離脱には早すぎる。隣の男に自らの弓と左腕を縛らせ、痛む腕を奮い立たせ、更に迫る宇野兵に向かって弓を引き絞ってみせた。


 正満の奮戦に、士気を上げた七条兵が吼えた。


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