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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第八章・播州鬼騒動六【天文二十二年八月十二日(1553年9月19日)~】
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10・播州鬼騒動六4-1(菅生表の戦い)


―4―



 同、九月三日(1553年10月10日)、夕刻。


 川瀬で相対してから、両軍の将の動きは速かった。


 菅生集落北部、旗印を隠した不明の軍は続々と数を増やしていく。

 

 正体不明の軍勢が稲わらに火を点すと、菅生集落に眩い光がわっと覆われた。

 菅生川は浅い川ではあるが、川辺には枯れかけの草木が生い茂る。夕暮れの覚束ない足元を危うんだか、秋の涼風に足が濡らすことを嫌ったか、兵士達は数の優位そのままに、集落中心の橋から突破を図った。


 一方、七条正満の手勢は九十余。


 七条隊は、山頂に残る味方を含めても半数以下。

 もはや誘い出された動揺はない。臆病風もどこ吹く風。恐れ慄くなと大喝する正満の姿に、将兵らが即座に正気を取り戻し、訓練通りの機動を開始する。


「敵の狙いは村落中央。無駄に命を散らすなっ」


 七条隊は弓による一斉射を放つと、菅生の橋を渡り、背後の民家に兵を下げる。


 眼前、最前列の敵兵数名を射抜いた手応えがあったが、確認する余裕はない。

 隠れる場所のない橋向かいを放棄し、半数の兵を民家の土壁を盾に伏せ、残る半数をさらに後方の坪川前の友軍と合流させ、又坂(置塩城に繋がる坂)までの防衛線を立ち上げる。


「長く持つとは思えませぬが」

「……言うな。持たぬと思えば早く逃げろ」


 殿軍(しんがり)の兵士の背中を軽く叩き、正満は三町(約330m)後ろの友軍陣地を目指す。


 令和の時代、鞍掛山と坪川の間には御門と呼ばれる地名が残る。その名の通り、正満の時代には坪川にかかる橋の先に山の傾斜を利用した三段の台地があり、台地の上には置塩の西を護る大きな木製の門が存在していた。門前の守備兵達は倒木を何本か重ねた柵を拵え、川沿いの隘路を通過する敵を迎え撃つ。


「全員、配置についたか」


 大殿へ援軍の知らせは既に走らせた。

 置塩城を起点として、北部と西部は現在交戦中。東部の守備隊も動けず、南部と中央からの援軍を期待したいが周囲の状況は未だ不明のまま。敵勢の正体や主力の位置が分からねば、置塩城側も予備兵力を何処に送ればいいか判断つくまい。


 北が陽動か、西が陽動か。あるいは別の戦力が居るのか。


「来たぞ。時を稼ごうぞ」


 第一の防衛線、菅生川沿いに陣を張る殿軍は集落入口の一本道脇に篝火を立て、灯りに照らされ姿が露わとなった橋上の敵を射貫いていく。


 狭い橋の上、数名の足軽が射倒れても歩みを止めない。


 衆寡敵せず。多少の損害はものともせず、敵先陣は怒涛の如く殿軍へ食らい付き、数人がかりで一人を圧倒する凄惨な殲滅戦が繰り広げられた。瞬く間に殿軍は全滅、敵軍は首級を捨て置き、更なる奥、第二の防衛線へと走り抜ける。


「誰も首を手柄と思っておりませぬ」


 首より時間。ほんの数刻でも侵攻を遅滞させたい七条隊としては、恩賞目当ての仲間割れでも起きればとも期待したが完全にあてが外れた形となる。


 やがて、坪川瀬の柵に取り付こうとする敵勢の中に、ひと際目立った武将が一人、先祖伝来の鎧具足を身にまとい、走りざまに七尺三寸(約221cm)の大弓を引き絞るのが見えた。


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