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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第八章・播州鬼騒動六【天文二十二年八月十二日(1553年9月19日)~】
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10・播州鬼騒動六3-2(菅生表の戦い)


 まさにその時だった。


 鞍掛山の北西、菅生集落の北端からわらわらと松明を灯す人の群れが現れた。 

 その数、凡そ二、三〇人。暮れの薄明りでは遠目ではっきりと判別ができないが、皆こちらに前進してきたかと思うと、足早に数名の集団に散開し、菅生集落の稲刈りの終わった田んぼに足を踏み入れ始める。


「おい……」


 待て、何をするつもりなのか。

 見張りの兵士も何事かと固唾を飲んでいる。

 

 続いて、田んぼの中の集団は松明で二、三度大きくぐるりと円を描く。なにかの信号であることは間違いないが、彼らの意図は不明。烏帽子親との密約が脳内をかすめた正満だが、それにしては動きが不可解。ただ見守るしかない。


「……おい」


 不明な集団は、注視する城兵らを嘲笑うかのように、天日干しされたイナグロに火を近づける素振りを見せた。


「……正満様」

「分かっている。山を下りる準備を」


 秋の収穫を燃やされれば、戦の趨勢いかんに関わらず人は飢える。

 一説に、四、五回秋の実りが無ければ、その家は滅びるともされる。米本位制の時代、金や銀はあくまでも代替貨幣。麦や粟稗など雑穀の幾ら貯えがあろうと、秋の米の収穫なしには直接的な収入を失うことに繋がる。


 非常に効果的な嫌がらせ。


 ゆえに、正満らは命を懸けて守らねばならない。

 正満はたちまち部隊をまとめ上げると、急ぎ山を駆け降りる。


 鞍掛山の麓、坪川の橋を渡り、西の菅生川の川瀬に着いた頃には、敵の軍勢はさらに数を増していた。


 正満の率いる鞍掛山城守備兵は百名弱。

 対し、敵の数は優に三百を超える。


 ―――誘い出されたのだ。


 後悔してももう遅い。敵兵が火を点けようとしていたイナグロには穂先が無い。脱穀済みの稲わらだけが干し木に吊られ風に靡いていた。



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