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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第七章・播州鬼騒動五【天文二十二年(1553年)~】
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09・播州鬼騒動五1-1



―1―



 同、七月十四日(1553年8月22日)朝。


 七条屋敷の床の間には、大きな百合の花が飾られていた。

晩夏を迎え始めた播磨の山野において、日差しの弱い谷筋で咲くこの白い花弁は、物言わず、しかし雄弁に季節の移ろいを主張していた。


 先の備前兵達による被害は軽微。佐用郡北部より山間の狭路を越えて少数の兵力が侵入してきたに過ぎず、集落への被害はあってないようなもの。国境の防衛線沿い全体を通して、武力を用いて突破された箇所は無く、食糧調達目的の民家の破壊はあったものの、領内での刈り働きや焼き働きなどの直接的な妨害行為も報告されていない。


「――以上が、事の顛末になります」


 親赤松派の諸侯たちが、自領内での巡回報告を次々に告げていく。


 元々大山鳴動して鼠一匹も見つからなかった空騒ぎ。七条屋敷の政元の耳に入る情報も平穏無事といった内容が大半であり、浦上兵の侵入以上に、里のスズメや山の獣たちが出す農作物への影響の方が甚大と冗談の声が挙がる程だった。


「流石に、浦上殿も下手な手出しは出来なかったようでありますな」


 わはは、と諸侯の幾人かが笑い、それと同数の諸侯が静かに上座の主人の顔を見つめる。その先、七条政元の表情は酷く苦々しい。


 数字の上での損害は有って無いも同然。

 

 だが、低い山の連なる佐用郡は、街道から街道までを繋ぐ間道が縦横無尽に走っている。この地形は、七条家得意の遊撃戦に有利となる反面、今回のような場合、少人数相手にはかなり分が悪い。


 一例として、美作国境から日名倉山を尾根沿いに船越山を通過していけば、赤松家に縁深い天台宗の寺・瑠璃寺までの直通経路となり、これならば七条家の領内を余裕で素通りし、宍粟宇野氏の治める鹿沢まで抜けることも可能となる。


ただの威力偵察と判断するべきかどうか。

四方を敵地に囲まれた飛び地の軍略は、いかに相手を出し抜けるか。


「……他に、報告のある者はあるか」

「そういえば、ですが」


 地元各地の寺から秋の法要に向けて、寄進の便りが届けられた。

 

 佐用郡の宗派分布としては、信徒たちの大半が真言宗と浄土真宗(一向宗)に二分化し、その後に、浄土宗、臨済宗、法華宗などの各宗派が続く。神仏習合の時代、多数の信徒から支持を集める寺社勢力は少なくない影響力を持っている。


 配下の一人が聞いたのは、夏のきゅうり封じを無事に終えられた御礼と盆の時節の挨拶、それと冬の護摩焚きに向けての寄進を是非七条家にもお願いしたいのだと伝えられたのだそうだ。


「なんだ、盆もまだ明けておらぬのにもう冬の話題か」


 棚経帰りになんとなまぐさか、と政元が眉間を抑えてぼやく。


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