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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第六章・播州鬼騒動四【天文二十二年(1553年)~】
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07・播州鬼騒動四3-2


「暫く待機。放火や刈り働きにはくれぐれも注意せよ」


 遠目に映る限りで敵の兵数は百にも満たない。和気から上月城下までの道のりは約十里。道中、彼らが敷設された要害を回避してきた経緯から考えて、少数の兵で突破を試みるはずがない。熊見川の支流・秋里川が本流へ合流するまでの間、どのような動きを見せるのか。


 対面、浅瀬山城主・孝橋秀時も手勢を揃えて同じ様に浦上兵らの動向を窺っている。


 上月城搦め手を間近に臨む山際の細道を、ゆらりゆらりと浦上勢の歩む。

 伏せた七条の兵士を気にした様子もなく、彼らの速度は一定。


「政元様。直進してきます」


 暗い川面、荒神山の篝火が鈍く揺らめく。上月城からの伝令で高台から見渡す限り秋里集落は無事らしい。改築中のため搦め手近くの守備はないに等しく、城守備兵達は浦上兵の接近をどこまで許すか固唾を飲んで政元の判断を待っている。


「佐用の義父殿は何と言っている」


 今回の一件、政元の義父・佐用則答の判断はかなり重要な要素になってくる。

 佐用家と浦上家の繋がりは以前から強く、則答の叔母は浦上村宗に嫁いだ経歴を持つ。そして赤松総領家嫡男であった七条政元が本家筋から下らされ、佐用七条家の家督を継いだ際には佐用則答の二女を娶っている。義父には領土の両側から勧誘の声が止まないのだという。

 

 佐用則答と七条政元の歳差は僅かに八。


 八歳上の義父上もまた、赤松と浦上の狭間で心を痛めている。肉親の情を優先させるか、赤松総領家への忠義を先とするか、先の三月に起こった尼子軍との合戦では、赤松総領家から許可を得たうえで西播諸侯と共に浦上宗景の軍勢と共闘を行い、作州国境から佐用郡にかけての防備も請け負っていた。

 

 立場上だけでなく、佐用七条家の実権を握る義父の意向を無碍に扱うことなどできはしない。


 政元は、荒神山上月城から浦上兵を見下す則答に心配りをし、再度緩やかに義父に決断を下すよう伝令を走らせた。


 と、浦上兵を先導する焔が大きく円を描き、同時、浦上兵らは足を止めた。


 浦上兵は二、三度周囲を確認すると、そのまま上月城下の集落群へ続く街道上で野営を始め出す。この道理に合わない動きに七条軍には動揺が広がった。完全な敵地では無いにしろ、そこまで心許せるものでもあるまい。彼らは彼らを敵として扱う勢力の城の真下で陣を敷こうとしていた。


 一体全体どういうことなのか。


 佐用、上月、七条の軍勢の誰もが頭上の疑問符を解決できないでいる間に、浦上兵らの陣は着々と準備を終えていく。配置させた兵達に、手をこまねさせたままで良いのか。消耗戦を避けるのと同時に政元らも自らの領土も守らねばならない。


 進むも引くも判断が難しい状態下、野営準備を終えた浦上側からの使者が上月城側へと到着する。


「我々の行動は赤松総領家からの同意を得ている。手出し無用である」


 開口一番、鳩が豆鉄砲を食らわせられた佐用諸侯らであったが、素直に「はいそうですか」と頷くわけにもいかない。総領家から何も言われていない以上、浦上兵らの言葉の事実確認のため、置塩への早馬を遅らせざるを得なかった。


 後に、浦上兵らの申告は虚報であることが判明するのだが、置塩の赤松晴政から知らせが届いたのは上月侵入から四日の後。佐用諸侯に事実が伝わる頃には、既に浦上兵らは姿を消し去っていた。


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