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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第六章・播州鬼騒動四【天文二十二年(1553年)~】
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07・播州鬼騒動四2-2


奇妙と表現するべきか、忠家と名乗る侍は酷薄な笑みを浮かべながら周りの男達に警戒を解くように命じた。


「どういうつもりだ」

「特段なにも。政範様の憶測は正しいかも知れませぬ」

「…………」

「七条殿も我が浦上の内情はご存知でしょうな」


 侍は手頃な地面を探し出すと、政範の都合などお構いなしに、刀の鞘を使ってつらつらと地面に図を書き始める。漠然と見るに、それは西国全域を模式化したものらしい。

 ならば、今引かれた線は備前と播磨での浦上兄弟の勢力図を表すに違いない。


「七条殿も、我が浦上家内の現状は御存じでしょう」


 備前東部を起点にする浦上宗景、播磨室津を中心に展開する浦上政宗。両者の確執は一触即発。両者は同じ浦上の血統を残すべく、お互いの血族を絶やすため表に裏に活動を開始していることは七条家も掴んでいる。


「今日この場所にお呼び出しをさせて頂いたのは他でもありません。先だって、我らも新兵器を手に入れましてな」


 知っている。浦上氏が石火矢(鉄砲)を取得したという報告は一向宗伝いに播磨国にも入ってきていた。

 政範の顔色を読み取ってか、忠家は一度頷くと更に言葉を続けようをする。


「我が主君、宗景殿の戦準備ももう間もなく整い、来春からは兄君、政宗様の領内攻略に手を付け始めるでしょう」


 忠家の手は止まらない。


「……現在、兄君との政争に万全を期すため、我が主は西播磨一帯の戦力調査と、室津での合戦が開始された際、赤穂・佐用・宍粟の諸侯がどちらに靡くか非常に心を痛めていらっしゃいます。それ故、七条殿の心境や如何とお聞きしたい、というのが筋書きで御座います」


 話が見えそうで見えない。齢十七の政範に対して、この物言い。

 奥歯に物が挟まる慇懃無礼さはなかなかのものだ。

 

「筋書き、とは」

「言葉通りですな。それ以上それ以下何もありませぬ」


 政範を人質に、父政元に宗景への恭順を迫ろうとしているのか。


「……はて恭順ですか。必要ありませんな」


 ただし、と言葉を繋ぐ。繋ぎつつ、忠家は懐より油紙の巻かれた書状を取り出す。

 書状の端には宗景の花押が入れられた判物が見て取れた。


「あくまでも浦上殿への恭順までは、ですな」


 書状の内容には、播磨国内での赤松本家の統治力の無さと西国情勢、及び浦上氏側への内応依頼が書かれている。東播の三木別所氏や英賀の三木氏など、本来赤松家の屋台骨となるべき有力諸侯は既に当主・赤松晴政の手を離れ、各地で独自の領内統治機構を設け始めた。


「宗景様は七条殿の心配をなされておいでなのです。かつて我らを苦しめた戦働き、民から慕われる政治手腕。それにも関わらず、貴方方に対して赤松本家がしているのは、お膝固めと名ばかりの鞍掛山での嫡男、正満殿の幽閉ではありませんか」

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