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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第五章・播州鬼騒動三【天文二十二年(1553年)~】
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06・播州鬼騒動三1-3


「そういえば、このところ叔父上の姿を見かけません。何かあったのでしょうか」

「ああ、正澄は置塩に行かせた。明後日の晩には帰るだろう」

「大殿の身に何か……」

「案ずるな、久方ぶりに若君が置塩に御戻りになられる。正澄には挨拶に向かわせただけだ」


赤松総領家の嫡男・道祖松丸は先の尼子大東征の際に結ばれた浦上氏との約定に従い、淡路逃走の際に、浦上領備前三石に人質として預けられていた。その制約は現当主浦上政宗が赤松家重臣から抜けた後、彼が尼子方に傾倒して以降も変わることがなかった。


 赤松家は過去に何度も返還の使者を送っていたが、その都度、何かと難癖をつけられ断られ続けていた。故に、赤松本家の中には道祖松丸を廃して、新たに養子の政佑(まさすけ)を本家筋に立てるべきという流れも存在し始めている。


 それが今この時、政宗側から嫡男返還の使者が訪れたのだという。


「間者の話では、この申し出には裏があり、政宗殿が頼りにした出雲勢が予想以上に早く北へ撤退したことと、備前国内で弟君ら独立派が息を吹き返し始めていることが関係があるのだそうだ」

「……そう聞くと、一概に喜ばしい報告ではありませんね」


 嫡男返還は喜ばしいが、間違いなく政治的な意図がある。いっそ清々しい程、露骨に見えている。


「ははは、正澄もこの話を聞かされた時には、腹を痛そうに押さえていたさ」


 佐用郡は赤松総領家と浦上氏勢力圏との間を穿つ楔。彼らとの折衝を取り持つため、赤松総領家と正澄の苦悩はこれからも絶えないだろう。


「叔父上、身体は持つでしょうか」

「言うてやるな。それはあいつが一番心配しておるわ」


 出立間際、正澄は頼みの胃薬が切れた事を嘆いていた。

 播磨国は古くから薬草栽培が奨励されていて、生薬の原材料集めには事欠かない。

 夏は旬を迎える薬草も増え、この田植えが終われば、何人か人足を集めて採取に向かわせても良い。これからの徒労を考えれば気休め程度にはなるかも知れない。


「後は鞍掛の兄上次第ですか」

「……何とも言えんな。あやつが何処まで動けるか。早まった真似をせねば良いが」


 一際大きく政元は伸びをして、難しい大人の会話が終わったことを子らに示してみせた。

 花はおずおずと政元の前に先の獲物を差し出すと、物々しい戦装束に気圧されたのか政範の背中に隠れてしまい、頭を撫でようとする政元の手に怯えていた。


「やれやれ……、花に嫌われてしまったか」


 嘆息ひとつ。農作業も一休み、近くの集会場で酒と料理が振る舞われ、子らは食事の準備を手伝おうと駆けていく。残されたのは具足姿の政元らと、政範、花の七条家関連の面々のみ。


「…………」

「父上、そろそろ見張りを火に当たらせるよう、指示を出してきます」

「ああ、気を付けてな」


 政範は戦の気配から少女を遠ざけると、番所勤めの伝令に火をおこして見回り組の帰還に備えさせた。束の間の平穏、賑やかさがあるのは村の市だけで良い。この日、佐用郡での鬼による被害は報告なく、巡回の褒賞も気前良く振る舞われたため、佐用の軍勢の士気は高く、誰もが意気揚々と帰路につくことが出来たという。


 しかし、肝心の鬼の噂は途絶えることなく、ついに近隣の人々の口から途絶えることはなかった。


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