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二人の天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第五章・播州鬼騒動三【天文二十二年(1553年)~】
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06・播州鬼騒動三1-2

 

 今回の案件、鬼の噂の出所を辿ってみれば遥か石見国まで辿りつき、このふた月の間に怪異の目撃情報は次第に東へ東へと移動しているという。加えて、最近では石見方面より出雲、因幡の街道筋を通る旅人が度々襲撃に合い、十数名の死者が出たという報告もある。


 当初流れ者や野盗らの仕業が疑われたが、野晒しにされた遺体に刀傷はなく、街道を上ってきた旅人曰く、被害者には身体半分がひしゃげるほど打ちすえられた痕跡が残っていたのだという。そして自らの力を誇示するような鬼の振る舞いに対し、奪われた荷物はほぼ皆無。


 ただの野盗が、このような仕打ちを仕出かすはずがない。


 肝心の鬼の実像自体もまちまちで、人々の口に登場する鬼の容貌は彩り豊かで、金髪碧眼、白髪紅眼、赤髪灼眼などは統一されておらず、背丈や男女といった特徴すらも明確ではない。


 情報を集めればそんなことばかり。『石見の鬼』の流言だけが、悪い熱病として領内でまことしやかに伝播し始めている。


「どうした政範。難しい顔をしているぞ」

「…………」


雨降りの中、巡回に出ていた父政元と配下数名の兵士と行き遭う。父親の顔に焦りの色は無い。悠然と息子をたしなめる政元達だが、その武装は心なしか平時の巡回に比べてかなり物々しい。


「毅然としていろ。子らが不安になる」


 今は噂だけ。眉唾物の怪談だが、時に厄介事を呼び寄せる可能性もあることを二人は知っている。


 この鬼の存在が、山の熊や猪の誤認ならばそれで良い。あるいは今のご時世、多少の狼藉者だろうと、よくある見間違い話として実態が分かればなんとでも対処できる。だが、今回は異常な事象が重なり過ぎている。


「……父上、一連の噂は、果たして本当に鬼の仕業だと思われますか」


政範の質問は、領民全てが抱える疑念といえた。

彼らにとって鬼はまだ遠くの存在で、今は面白可笑しく夜話の一つとして話されている。

だが、徐々に噂に登場する地名が播磨に近付くに連れて、あやふやな『鬼』が正体不明の(おん)を抜け出でて、やがて独り歩きを始める。


 それからでは遅いのだ。


 だからこそ、例え張り子の虎だとしても厳めしい防衛体制を見せ付けることで、外からの賊の領内侵入を躊躇わせる必要がある。


 政元は具体的には何も答えず、ふはりと静かな苦笑いを返事とした。


 政範も、父の真意を理解したらしい。他に話題を探そうと、辺りを見回す。

 雨は相変わらず降り続け、初夏の生ぬるい水気が全身を濡らしている。

 そんな悪条件でも、農民や町人、商人に浮浪者、会場ではその他様々な人種が混じり合い、佐用村の田植えの手を止める者は居ない。



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