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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第四章・播州鬼騒動二【天文二十二年(1553年)~】
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05・播州鬼騒動二4-2(高田表の戦い)

 

 直家が提示した案は、それほど大したものではなかった。

 

 「少し心臓に毛が生えていれば、誰でも行える、本当に簡単な作戦となりますが……」


 宗景は将を集めると五千と一万に分け、本陣五千を残し、残りを旭川沿いに布陣させた。

 

 美作勝山に大部隊が展開可能な平野は存在しない。天文十七年の現地軍と尼子軍との戦いで勝山に置かれていた前線基地・高田城は陥落しており、東隣の津山一帯は敵将・尼子国久(あまごくにひさ)の手に落ちていた。


 結果、浦上軍主力は北西と東側面の二正面から尼子軍を相手していた。

 

「先ずは、押し込むことが最善」


 休憩を待たず、昼頃より先陣同士がぶつかり合い、狭い平野部の中で敵味方が入り乱れた。

 数に劣るにも関わらず、序盤から浦上軍は積極的に攻勢を仕掛け、数で勝るはずの尼子軍を一方的に押し込んだ。


 両軍の損害は同等。しかし、あまりに執拗な浦上勢の猛攻を前に、最前線の尼子の兵士の中からは刀や槍を投げ出して勝手に退却する者も出ている。


 脱走兵への処罰は厳重だったにも関わらず、尼子勢に戦線を放棄させたとあって、この時の浦上勢の攻勢は相当なものだったのだろう。


 が、浦上軍の優勢は長くは続かない。


 崩れた前線を押し上げるべく、今度は敵将・尼子晴久が配下の牛尾隊に伝令を飛ばし、事前に伏せていた鉄砲隊を浦上勢の側面に移動させた。

 

 晴久は、小高い丘の上の本陣から静かに浦上軍の動向を見極め、鉄砲隊が配置に着くと同時に合図を送る。


 轟、と背後の林からの一斉射。鼓膜を破らんばかりの爆発音が響き渡ると、次いでばたばたと浦上兵が倒れた。鉄砲に慣れていない浦上軍の兵士は、すわ何事かと突然の横槍を理解出来ず、はたと足を止めてしまった。

 

 この機会、晴久が見逃すはずもない。


 後退していた前線の兵士をまとめ上げ、直ぐさま尼子軍が反転攻勢。戦線を一気に押し戻す。

 

 攻両軍は再び激しく入り乱れ、攻守は目まぐるしく入れ替わる。

 

 だが、先陣と後陣が分断され、勢いを無くした浦上勢は苦戦を強いられ、次第に磨り潰され始めた。

 

 しかし、ここで浦上危うしと見た美作後藤氏の精鋭五百が浦上勢の救援に駆けつけたことで、再度合戦の主導権は浦上側に移行する。


 彼らは鉄砲による一斉掃射を地面に伏せることで凌ぐと、尼子軍の先陣に斬りかかった。

 

 僅か一刻足らずの間、両軍は手を変え品を変え、備前兵も出雲勢も凌ぎ凌がれ、戦闘は夕闇が迫る頃まで続けられた。


 夕刻を迎える頃、両軍は多数の被害を出し、各々の遺体を放置したままそれぞれの陣地に引き上げた。

 

 宵闇の尼子陣地では、浦上軍の攻勢あなどり難しという論議がなされ、未だ不慣れな土地での夜襲を恐れ、本陣周辺の防備を固める動きが見られた。


 尼子氏の厳重な警戒体制は、それほど遠くない場所からでも一部始終が見てとれた。

 

 直家は、そんな出雲勢の様子を物見から聞き、思わず含み笑いを洩らす。

 

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