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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第三章・播州鬼騒動一【天文二十一年(1552年)~】
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04・播州鬼騒動一4-2


 野盗でもなければ、近くに城や屋敷もない。かといって、集落に実害があるわけでもない。

 ただ幽かな琵琶の音が、夜半の山々に木霊するだけ。


 集落の人間達は、この奇妙な琵琶の音を、近くの山の狐の子供が演奏の練習をしているのだろうと噂し合った。ちょうど、同じ佐用郡内の谷には、弘法大師に霊場を作られては適わないと、佐用の山々から狐狸達が集まり、霧で谷を隠してしまったという伝説もある。


 そうした霊験あらたかな古狐達の末裔ではないかという声もあった。

 

 やがて時が経つに連れて、狐の鳴らす琵琶の音色は、何かしらの旋律を紡ぐようになる。

 秋が深まりを見せ、紅葉と虫の音が最高潮を迎える頃には、物悲しい秋鹿の声に混じり、過ぎ去る季節に哀愁を感じさせる切ない響きが、集落全体を包むようになった。


 曲名不明、弾き手も不明。


 それでも抜群の腕前を披露されると、徐々に恐怖も薄らいでくる。

 皆が聞き惚れ、子守唄のような調べとして、集落の新たな娯楽として受け入れられるようになったという。


 今日の夜話会の開催日も、やはり話題の中心は、この狐の琵琶だった。

 会場の誰もが闇夜の森に耳を澄まし、件の音色が聞こえてくるのを、今か今かと待ち続けていた。


「お邪魔、します」

「失礼させて貰う」


 集会場となった古老宅に、新たな訪問者がやって来た。

 一人は花、もう一人は七条政範。


 二人は一旦、集落奥の花の家に寄り、着替えと湯編みを済ませてから会場へと出向いていた。

 時間的にそれほど余裕が無かったので、花は秋に漬けた山桃の猿酒を、政範は市で貰った田楽と鮒の醤油煮を手土産に持ち寄った。


 見慣れぬ政範の存在に、大木谷集落の者が訝しがると、政範はすっと膝を折り、正座したままで頭を下げた。


「……夜分、突然押し掛けさせて非常に申し訳ない。手前が花に、この谷の夜話会を見せて貰いたいと頼んだのだ」


 今の政範は、花の家にあった男物の古着を借りていて、帯刀もしていない。


「花、この若いのは誰だ」

「あの……、知り合いの、人」


 間違いでは無いが、正解でもない。

 生来おどおどした花の喋り方では、政範が不審者の様に思われても仕方ない。


「お前、俺らの花を呼び捨てにするとは何様のつもりだ」

「侍みたいな口を聞きやがって。俺達を馬鹿にしてんのか」


 不用意に彼らの領分に入ってしまったことを、政範は激しく後悔した。たちまち怒号と罵声が会場中から巻き起こり、更に政範の慇懃無礼な態度が、敵愾心を煽る結果になったらしい。


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