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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第廿八章・出雲尼子氏崩壊【天文廿三年十一月十九日(1554年12月13日~】
276/278

32・出雲尼子氏崩壊3-1

ー3ー


 同、未の刻。


 大蔵海岸より半里。浜一番の網元の母家に赤松軍の主だった将らが揃い踏む。


 ここが現在の赤松軍本陣。


 この辺り一帯は平地が乏しいために、浜一番の網元屋敷といえど母屋は六畳と八畳の部屋がそれぞれ二つずつ。ただし各部屋同士を区切るのは襖のみとなるために、襖さえ外してしまえば容易に廿八畳の大広間にもなり得る。これなら雨露をしのぐだけでなく軍議を開くにも十分な広さを確保できる。


「……皆、突然の招集大変申し訳ない。つい今仕方、出雲の密偵が戻った」


 義祐の声はよく通る。

 

 今回の軍議において、赤松家の次期当主、赤松義祐が最も上座に座り、次いで重臣の鳥居十郎左衛門尉、それから船曵、清水、山根と続き、七条政範の序列は六番目。ただ、前の三方は置塩の当主晴政の家臣となるため、実質三番目か四番目の重臣扱いとなる。幸い、大将の義祐本人が歳若く、同じくらいの年齢の政範の存在に異を唱える者はいなかった。


「驚くべき事に、尼子家内部の粛清はやはり真実。よって、これから先の尼子の動行についての予測を、またそれに対して我々がどうすべきか、それぞれの立場から意見を伺いたい」


 一同が(どよ)めいた。


 尼子の当主尼子晴久が新宮党を弑して誅殺と標榜した件に関して、寝耳に水という者もいれば、前もって出雲事情に通じ、無理からぬことと言葉を漏らす者もいる。今日この場に集められた者の前には、特別に京から取り寄せられた白酒が振る舞われ、政治的な配慮から義祐を含め全員に同じ肴の膳が用意されていた。


 旨い酒、旨い肴。


 にもかかわらず、誰も料理を口に運ぼうとしない。


「どうした。朝早くからの荷運び、皆喉も渇いているだろう。先ずは一献呑め。話はそれからだ」


 言いつつ、義祐が酒に口を付けると、おずおずと家臣らも盃に手をつける。


 人間とは不思議なもので、時として酒精の力を借りた方が話が早い場合もある。今がまさにその時で、一度盃を乾かしてしまうと、あとは関を切ったかの如く家臣同士で言葉が飛び交い始めた。当然酒の力で意見は玉石混交。その一々の言動を義祐は注意深く観察し、場が温まるのを静かに待つ。


 と、唯一、義祐の視界の中で動きの違う者がいる。


 喧騒の中で酒に口をつけず、政範だけが黙々と打ち鮑に箸を伸ばして周囲の様子を伺っていた。


 それが義祐の興味を引いたらしい。


「なんだ、お前は呑まんのか」


 下戸か、という義祐の問いに政範は申し訳なさそうに頷いた。


 ならば、と義祐が番茶を用意させると、奥から盆に湯呑みと急須、それに飴色に輝く茶葉が運ばれてきた。一目で普段政範が口にするような一般的な茶葉ではないことが分かる。茶葉を一葉手に取るように、と促された政範が不思議そうに摘んだ茶葉を眺める姿を見て、義祐は満足そうな笑みを溢した。


「知らんのか。これは美作で作られる特別なものとなる。艶やかで良かろう」


 自分はいたく気に入っているのだ、と、下女に茶を入れさせる。


 これは今日(こんにち)、我々が日干番茶(にっかんばんちゃ)と呼んでいる茶葉となるが、この茶は美作に茶の木が伝わってから独自に進化を遂げたもの。過去、赤松家がまだ播備作の三カ国の主人だった時代から飲まれてきた赤松家ゆかりの品となる。

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