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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第廿六章・摂州三好乱入ニ【天文廿三年十月十二日(1554年11月7日)~】
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30・摂州三好乱入二3-2


「しかし……」


 それでは勝てないのではないか、と言葉を政範は呑み込む。


 籠城戦はあくまでも手段。如何に自分達を建武の英雄になぞらえようと、畿内と四国に強大な基盤を持つ三好軍を前にただ城に籠るだけでは自滅するのは目に見えている。別所には何か当てがある。それもかなり有望な何かが無ければ籠城戦という選択はない。


「宗永殿は、あの城から抜けて来られたのでしょうか」


「……いかにも。現在、三木城内では起死回生の秘策として、丹波国より細川・足利の軍勢を呼び込むのだという話があちこちより漏れ聞こえております」


 丹波の反三好勢力との交渉役には、同じ東播国人衆の明石氏が選ばれたという。


 播州三木に三好軍主力を引き付け、その間に、丹波の足利義輝・細川晴元が軍を率いて京都を奪還。混乱する三好軍を東西より挟み討ちすることで一網打尽にする。やや場当たり的にも思えるが、現状を勘案すれば、連戦続きの別所勢に残された数少ない有効打にも思える。


 一応の理は有しているものか、と納得しかけたところで、政範にはふと新たな疑念が生じた。


「待って頂きたい。漏れ聞こえるとはどういうことですか」


 そもそも、秘策ならば事が成るまで黙っておくのが筋。一応、別所と三好の戦において、赤松家は中立の立場を取ってはいる。とはいえ、宗永からすれば、今ここで政範が三好軍の元に走って情報提供しないという保証はない。


「言葉の通り。城兵らの士気を上げんと上が漏らしたものが、公然の秘密として今では城内は元より城外の者に至るまで平然とまかり通っております。さらに危うい事に、城内にそれを止める者は居らず、城主・就治様も東にばかり目が行っておられるばかりで、端谷から三木までを最終防衛線として守りを固めさせるよう指示を飛ばし、日々明石氏の使者を待っている御様子と聞き及んでおります」


 恐らくだが、城兵らの噂話は既に止められないものとして放置されている。


「……当然ながら、三好の耳に届かぬはずがありませぬ」


 奇襲は相手に動きを察知されぬように動き、虚を突いて初めて奇襲は成立する。相手に策が露見している時点で、奇襲は奇襲足り得ない。逆に、自分達が奇襲に頼らねばならぬほどに劣勢であると放言してしまっているようなもので、三好軍からすれば別所軍の動きが整うまでの間に各個撃破に向けて動く原動力にもなり得る。


「道理で。この辺り一帯に三好の手の者が入り込んでいたのはそれが原因でしたか」


 合点がいく。


「……間もなく三好軍による明石攻めが始まりましょう。現在の枝吉の備えでは明石殿の勝利は万ひとつも見込めませぬ。そうなれば、別所は更なる窮地、更なる窮状に陥ることは必至。それゆえ、別所は赤松様に何としてでも自分達が見捨てられておらぬという証が欲しいのです」


 宗永の目つきの中には、険しさの中に懇願とも悲哀ともいえる色があらわれた。

 

 情で落とす、というべきものだろうか。この室内に宗永が入って初めて見せた彼個人の感情に、政範は戸惑い、それでも一語一語言葉を選びながら、なんとか返答する。


「お話は分かりました。どの程度の誠意をお届けできるかは確約は出来ませぬが、必ずこの話を才村の義祐様のもとにお届けいたしましょう」


「……くれぐれもよろしくお願い申し上げます」


 平に平に頭を下げる宗永に、政範は言葉を濁すより他になにも出来なかった。

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