30・摂州三好乱入二1-2
人の情を利用する。こと、子供を引き合いに出せば相手の心に訴えかけることが出来る。
人類史上、幾度となく繰り返されてきた普遍的な手段だが、その効果はいつの時代も変わらない。利発そうな少年も自分の役目が分かっているのだとばかりに大きく胸を張った。
なるほど、と政範が何度か頷き、別当も砕けた鬼瓦の様な顔で満足そうに微笑む。
「……有馬様と七条様はこちらへ。この時期の堂内は尻から先に冷えます。僧坊に火鉢の準備をさせましたのでこちらへどうぞ」
一見、融通が効きそうにない強面の別当だが冗談も言えるらしい。敷地内を案内するひとつひとつの動作にも柔和さが伝わる。それでいて、さりげなく社殿の由緒やら謂れやらを紹介してくるあたり、説法を傾聴しに寺を訪れる者もそれなりに多いのではないかと政範が問うと、別当は曖昧に笑って誤魔化した。
「摂津の商人とも繋がりがありますから」
多分彼は照れている。
少年と外交僧が連れ立って三木へと旅立ち、政範と国光は僧坊へと通される。
初冬の頃、早くも弱り始めた日差しが差し込む室内に二つの火鉢が並べられ、部屋に入ると同時に温かい湯が出された。真冬の歯の根があわぬほどの寒さはないが、それでも早い北風でかじかんだ手で湯呑みを持つとそれでもじんわりとした温もりが伝わってくる。
冷えていたのだ、と自覚した政範が感謝を述べると別当は笑って席を外した。所用があるらしい。
これから政範らに出来ることはただ待つことのみ。あの僧侶の説得に三木別所が応じるか否かは不明だが、託す以外の選択肢がない。あとは野となれ山となれ。落ち葉が舞い始めた無人の境内では、風に煽られた梅の葉がただただ静かに季節の経過を知らせていた。




