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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第廿六章・摂州三好乱入一【天文廿三年七月三日(1554年8月1日)~】
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29・摂州三好乱入4-2【国包建具】


 彼らは川を行き来する舟に絶えず目を見張らせ、時折怪しいものが隠れていないか、舟引き人夫を呼び止めて川舟の中を(あらた)めさせていた。


「あの者らが三好に与しているのは確かなのですが……」


 不逞な輩として彼等を取り締まることは国光の権限でも可能は可能。だが一団の行動が明け透けなだけに、下手に手を出すことで思わぬ因縁を付けられ、この地に三好の軍勢を呼び込む大義名分を与えてしまえば本末転倒。


「突かぬ藪から既に蛇の尻尾が見えている状態とあっては、土豪に毛が生えた程度の戦力しか持たない我らには荷が勝ち過ぎるのです」


 だからこそ、皆分かっていても手出しが出来ずにいる。


 少し川沿いを歩きますと国光が促し、一行はしばらく加古川東岸を道なりに歩く。


 今もまた、政範の目前で三好の間者と推定される者のうちの一人が、六十余間先の井之口村から新たに船着場に到着した渡し舟にうず高く積まれた苧環(おだまき)の中に手を突っ込んでいた。通常、青苧は少しでも嵩張りを減らすために繊維のみを束ねた状態で出荷されている。今回の場合、木枠が(むしろ)に包まれて乱雑に折り重なった状態で川舟に乗せられ、不自然に膨らんでいたのが彼らの警戒心をくすぐったらしい。


「……国包に木を繕う名手が居るのを知らないのです。やはり彼らは他所者でしょう」


 目を合わせ無い様に、と国光が手振りで指示し、政範も僧侶もしずしずと舟着場から距離を取る。


 国包は、嘉禄元(1225)年に加古川下流一帯を襲う大氾濫によって全村が流失。その後、川の流路が西へと変動したことを受けて、村民のほとんどが川の東岸へ渡った歴史を持つ。


 しかし、村を東岸に移した後も村人の暮らしが楽になったかと言われればそうではなく、『国包は、五日も日照が続くとツルベで朝・夕灌漑をしなければならず』という記録が残るほど、水の傍にありながら農業用水の確保に困窮した土地となり、それでいて度々の洪水に見舞われた。


 そうした経緯もあってか、当時から同地には木材を扱うのに長けた職能集団が存在していたという。


 政範が生きた時代、国包はまだ黎明期を終えたばかりの胎動期。農業を生業とするかたわらで、川舟や木工細工の生産、修繕などをおこなう程度の規模だった。


「ここの道を曲がり真っ直ぐに。しばらく行けば大社に辿り着きます」


 国光の案内は冷静なもの。三好の手の者も警戒網に引っかからぬように、極めてゆったりと自然に地元の僧侶を警護する地侍の一団を演じさせていた。政範がふと後方を振り返ると、土手の向こうの舟着き場は姿を消し、ただただ激しく木製品が壊れる乾いた音と男達の怒鳴り声だけが響いていた。

【国包の職能集団】


 国包の職能集団が本格的に始動するのは、政範が生きた時代より四十年ほど後の文禄年間以降。


 天下泰平の時代になって加古川の水運が整備されると、間もなく村は物資の集散場兼宿場町として発展を遂げ、他の地方から木工に関する技術の流入が進む。


 その後、宝暦六(1756)年に長浜屋新六郎が避難用の築山を築き、文政七年(1782)に畑平左衛門が亀之井用水の堰を完成させたことで村での水の確保が容易になり、石高が飛躍的に向上すると、職能集団は培われた技術を余すところなく活かし、国包は、加古川市最古の地場産業・国包建具(くにかねたてぐ)を生産する職人の町として開花する。



【国包建具】


 現代、国包地区は、日本一の木工の里・飛騨の高山になぞらえて「西の高山」と呼ばれている。加古川最古の地場産業として江戸時代から続く国包建具は、木材をパズルのように組み込み、複雑かつ華麗で繊細な手仕事による細工を特徴とする。昭和四十七年五月、岐阜県で開かれた建具日本一を競う木製建具展示会では、出典した六名全員が労働大臣賞をはじめとする種々の栄誉を得ている。


【参考】


一般社団法人 加古川観光協会さまHP『加古川の伝統産業』

https://kako-navi.jp/tradition.html


高橋建具製作所さまHP

https://takahashitategu.husuma.com/img/kunikanetategu/kunikanetategu.html 

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