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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第廿六章・摂州三好乱入一【天文廿三年七月三日(1554年8月1日)~】
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29・摂州三好乱入1-2


 有馬郡は、過去に何度も三木別所氏の侵入を受け、(いさか)いが絶えない地として知られている。


 両家の間には、下冷泉家の細川荘や佐藤氏の治める加東郡東条谷などの緩衝地こそあれ、三木別所氏と親交深い念仏城の田尻氏や衣笠城の衣笠一族、淡河城の淡河氏とは常に領地が接し、別所軍の危険に晒されていた。


 重則が出雲尼子氏と三木別所氏との戦闘に対して、人一倍諜報には力を入れていた所以。


 戦物見からの報告や実際の戦闘を見てきた者らの話を総合すれば、三木別所軍が尼子と争った際に生じた被害は、両者の共倒れを願う重則が期待したほどでもなかった。


 その代わり、旧主・赤松総領家の軍勢が周辺国人衆の予想よりずっと多く集結していた。赤松軍もまた三木別所の行動を警戒し、美作国に戻った尼子軍主力とは別に、別所軍の動向に目を光らせているという。


「……これは悪い意味で状況が整っておりますな」


 重則の見立てでは、情報を整理すればするほどに、三木別所軍と赤松惣領家がぶつかり合う可能性は限りなく低い。


 東播と西播の両雄が出揃った以上、もしも両軍が搗合(かちあ)えばどちらも無傷というわけにもいくまい。いずれ播州の覇者の座を賭けた決戦が始まろうが、それは決して今ではない。


 それより有馬領は寡兵にして防備も不十分。水田の夏の手入れが終わった瞬間、別所軍が有馬郡へ手を伸ばす危険性の方がずっと現実的に思えた。


 重則の判断は早い。


「……隣国播磨の別所は元より主家赤松の影響を脱しつつある。そして此度尼子との(いくさ)を機に、奴らは東播磨から覇を唱えようとせんと試みておるのではないか。ならば当家も無関係ではいられまい。別所と事を構えるに当たり、いかにこの危機を乗り越えんとしたものか」


 有馬家重臣を一堂に集め、重則が問う。


「いかにと申されましても、殿も人が悪うございます。どのように問われようと、我らが取れる道は最初からひとつしか無いではありませぬか」


 重臣の一人が溜め息混じりで答えると、その反応が見たかったらしい。重則は鷹揚に頷き、底意地の悪そうな顔でくくくと笑う。


「左様。だからそれで良いのかと問うておる」

「…………」


 満場一致で無言。全員の沈黙をもって回答とする。


 評定終了後、機先を制したい有馬氏は即座に三好家の本拠地芥川へと使者を送り、三日の後には使者は芥川へと到着する。


 しかし、生憎(あいにく)と三好家当主との直ぐの面会は叶わなかった。


 断られたわけではない。ただ、この時の三好家は当主長慶含め軍全体が丹波国桑名郡に出向いていたため、有馬氏の使者とは入れ違いになっていた。


 畿内一帯が三好家主導の政治体制に移行して早二年。


 少し平穏の兆しが現れ始めた京の都と比べ、山城以北は相も変わらず乱れている。騒乱の大元は、近江国朽木谷に逃げ込んだ将軍・足利義輝。


 彼が細川吉兆家の細川晴元率いる晴元党や丹波の波多野氏などと組み、京都奪還を計って度々兵を起こすものだから、その都度三好家は動乱鎮圧に向けて軍を派遣する必要に迫られていた。


 今回の派兵は春四月の軍事行動以来、二度目の出兵となる。


 丹波戦線は三好氏有利に動いたらしい。


 六月廿八日に出陣した長慶が帰陣したのは七月七日。有馬氏の使者が長慶との面会が叶ったのはそれからとなる。


 播磨の近況を聞いた長慶は、戦後処理を終えてからという条件こそ付けたが、元々肥沃な播磨国に興味があったか、あるいは丹波戦線が好調だったことを受け上機嫌だったのか、二つ返事で有馬氏の要望を快諾してくれた。


 使者が飛ぶ様にして戻ると、三田の有馬重則は盛んに三好軍が播磨に向けて軍を送り込んでくるのだと噂を流させ、噂を聞きつけた別所軍がついに有馬郡に侵入する事はなかった。


 逆に、有馬と三好の軍勢が東播磨に侵攻を仕掛けたのは八月の廿九日になってからのこと。


 尼子の危機が北の出雲に去った後、播磨は今度は東から更なる危機を迎えるのである。

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