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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十五章・備前沼城争奪戦二(天文二十三年七月十五日?~八月十二日?)
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28・備前沼城争奪戦二3-2


 ここが引き際と悟ったか、勝ち筋を失った尼子誠久は再々度美作へと軍を引き下げ、この尼子軍の撤退を待って天神山南に陣を張っていた室津勢も静かに姿を消していた。こうして天文二十三年夏、三度に渡って行われた備前沼城を巡る一連の争奪戦は終わりを迎えた。


 しかし、備前東部での争い自体が終息したわけではない。


 戦場は北へ。室津から救援物資を得た尼子勢は息を吹き返し、国境の吉井川沿いに新たな防衛線を築き上げ、今度は備前独立派が国内の尼子派閥を駆逐するべく攻勢側に立って逆侵攻を始める。両軍の対立はしばらく止むことなく、備前浦上軍もまた、備前美作方面国境の周匝茶臼山城攻略に向けた兵を何度か送り込んだらしい。


 だが、ここからの両軍の詳細な戦況を伝える良質な史料は見つからず、口伝にも残されていない。一時、享保年間に記された周匝茶臼山城近郊の山鳥城で行われた戦いが実は天文二十三年十一月の出来事だったのではないか、という声も聞いたがそれは誤りだと思われる。


 わずかに伝わるのは、両勢力が備前国内の地侍らを取り込むために尼子も備前独立派どちらも(しのぎ)を削ったことのみ。尼子側は、備前北部と美作東部を手中に収めた事実と播磨室津までの要衝打通させた実績を。備前独立派は数に勝る尼子軍を少数ながらも見事に防ぎきってみせたのだと。両者は互いに自分達の勝利を譲らず、激しい調略戦が繰り広げられたとされる。


 この物語を語ってくれた老人は、この時の両軍の動きをパッシェンデールになぞらえた。湿地帯が舞台ということもあるが、長期に及ぶ遠征軍に大義名分を持たせようと必死になっていた尼子軍が苦慮の末に至った決断が老人の目にはそのように映ったのかも知れない。


 本来の防御力を取り戻した沼城の前に後退を開始した尼子軍だが、戦に敗れて退いたわけでない。続いて行われた備前浦上側の反転攻勢を少なくとも一度は退けている。


 はっきりと分かるのは、両軍の戦は遅くとも十月中旬までには終結したことと、勝利を欲する明確な勝者は存在しないこと。著しい荒廃と治安崩壊を残した備前美作の争いは、次なる局面に向けて誰もが大きく動こうとしていた。

【山鳥城落城記】

・ 「山鳥城落城記」は享保年間の「平尾善九郎秘記」という書物に記された軍記物の中に登場し、尼子軍と山鳥城の合戦模様が極めて詳細に記されている。この時代の山鳥城に関する伝説に関しては「小モノ矢田」と「諏訪神社の由来」があり、後者では尼子氏の進攻は天文二十一年とする。筆者が以前聞いた天文二十三年説はどう考えても時系列的にはありえない。

(参考資料:尼子氏の美作・備前侵攻と周匝 │賀茂別雷神社文書に見える周匝城│二〇二三年七月二十九日、赤磐市歴史まなび講座 中近世の周匝)

https://www.asahi.okayama-c.ed.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/11/Kiyou_No45_07_Tatsuta_compressed.pdf


【パッシェンデールの戦い】

・1917年7月31日〜11月10日、ベルギーのウェスト=フランデレン州イーペルにて行われた戦闘。低湿地帯のイーペルでは雨季に重なって激しい砲撃戦が繰り広げられ、両軍が水路が破壊されて半水没した塹壕の中での戦いとなり、重砲が運び込めない状況下で何度も攻勢が繰り返された。凄惨な肉弾戦が各地で発生する中、最終的には70万人を超える死傷者が出ている。

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