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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十四章・備前沼城争奪戦【天文二十三年七月十五日?~八月十二日?】
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27・備前沼城争奪戦2-2

 

 殺到する美作勢に対し、強力な光源が近くにあり過ぎるせいで、本丸からは坂下の人間が夜の闇から忽然と飛び出してくる様にしか確認できず、咄嗟に誰が誰かという判別することは不可能となる。せめて旗印の一つ、目印の一つもあれば生き残れたかもしれない。


 入り込んだ尼子勢の姿すら把握出来ない恐怖に駆られた本丸の守備兵らは、城門を固く閉ざし、敵味方の区別がつかないまま、ただ闇雲に手持ちの矢と石が尽きるまで坂に向かって間断なく放ち続けた。


 坂下の美作勢から、やめろ、やめてくれ、という悲鳴が幾つも上がったが、泣いて縋ろうと城門は開かず、敵味方の挟撃を受けた美作衆は完全に逃げ場を失う。前進した者は仲間からの射撃の餌食となり、再び坂を降りていった者は尼子勢の手によって中洲の葦を刈るよりも容易く討ち取られた。


 一夜明け、坂の上には美作衆の無残な遺体が幾つも転がっていた。


 坂の途中で折り重なるようにして倒れていった美作衆の死に顔は筆舌し難く、皆、恐怖に打ち震えたまま顔を歪ませて事切れていた。暗がりの中、城内で巻き起こった同士討ちの数は尼子兵に討たれた者よりずっと多い。美作衆の生き残れたのは、運良く城門前の松明の前の明るみまで辿り着けた者と、冷静さを失わず最初から二ノ丸の暗がりの中に隠れていた者のみ。


 すぐに城の外に出て調べてみれば、昨晩使用されたのであろう小舟やガンジキがあちこちに放棄され、北の対岸から泥田に何本もの孟宗竹を投げ入れて作られた即席の『道』が発見された。襲撃後の尼子勢はこの道を渡って悠々と帰って行ったに違いない。

 

 北門の閂は、ご丁寧にも撤収中の彼らによって破壊されていた。


 これほど周到に計画されていた夜襲にも関わらず、城側は何一つ予兆を気付く事すらできなかった。被害の実態が明るみになるにつれて、城主中山勝政は自分が取り返しのつかない失態をおかしてしまった事に気付く。


(……この規模の夜襲であれば、尼子側とて以前から泥田が渡りやすい場所の調査に来ていたはずだ。しかし、水深を測る水音なり不審な人物を見かけた報告が一切ない。警備の目が節穴でない以上、何も報告がなかったのであれば城内の者の大半が見て見ぬふりしていたのではないか)  


 空恐ろしくなる推論だが、実際に被害を受けた勝政にとっては否定できる要素がないもない。拭い切れぬ不安感に包まれる彼のもとに、城の北、半里ほどにある大廻山・小廻山の尼子軍から降伏の使者が訪れたのは程なくしての事だった。





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