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二人の天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十四章・備前天神山攻防戦【天文二十三年七月四日(1554年8月2日)~】
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26・備前天神山攻防戦4-2


(本来であれば、こんな無様な力押しなどせずに済むものを……)


 堅固な山城は遠巻きにして枝城から落とすか、あるいは戦意が尽きるまで糧道を断つに限る。そんな兵法の初歩の初歩、国久とて百も承知。言われずとも分かっている。


 だが、それでも諦められないのは、現状国久らに必要なのはひと月後の馳走ではなく明日の粥だという目を背けたい現実がある。


 国久ら備前侵攻軍にとって、手持ちの糧米ではどう引き伸ばしても数日食い繋ぐのが精一杯。元来軍隊とはただ存在するだけで物資を大量消費する大きな生き物であり、それを維持するだけの補給があって軍が成り立つ。今、美作国では当主尼子晴久自らが主体となって地元国人衆に便宜を図り、補給路の確保と治安維持に努めていると聞く。


 しかしながら、実際に陸路で運ばれる兵糧は国久らの期待より遥かに少ない。


 一ヵ月の間に尼子軍全体でかなりの消費があった事に加え、相当量が美作国内での撫民に当てられている。恐らくはかなりの中抜きがあるのだろうが、先に掠奪した分、多少色を付けて補填し直さねば国人衆どもが納得しまい。


(播磨で飢えた分、せめて兵どもには腹一杯食わせたいものだが。だが今の備蓄では出雲に帰るまで持つか分からぬ……)


 このまま戦線が停滞すれば一揆が再発せずとも遠からず侵攻軍は消滅する。敗軍の兵ともなれば散々やらかした美作国内を生きて通過出来るか保証はない。


 士気崩壊の恐怖が、国久を攻城の愚に駆り立てていた。


(儂ならばこの難局、是が非でも成し遂げてみせるが……)


 当主主導といえば聞こえは良いが、とどのつまり相性問題。


 国久が思うに、堅気な美作国人と利と理を重んじる晴久ではいささか分が悪い。


 この美作において、晴久は悪い意味で品が良い。本国出雲や安芸、周防ならば品の良さは美徳となる。しかし戦国期が始まって以来明確な主を持ち得なかった美作国では、他のどの国よりも純粋な力に憧れがある。だからこそ、美作国人を従属させるためには理で諭すのではなく圧倒的な武力を以って心酔させねばならない。


 一度心を許さば、多少の狼藉があろうと彼らは目を瞑ってくれる。

 たとえそれが粗野と呼ばれる蛮勇であっても。


 国久の知る美作国人の心証は、英雄の登場を待ち焦がれる一般民衆そのもの。


 ゆえに、城をあとひとつ、あとひとつ抜けば配下の腹も膨れるし尼子の武名も轟こう。

 

 あとひとつ、あとひとつ。あとひとつの呪いに掛けられた尼子軍は、翌十一日も再々に亘って天神山北部から攻め寄せた。が、結果はやはり前日同様、本丸はおろか外壁すら乗り越えられず、未完成であるはずの山城は国久を拒み続けた。


 数度に亘る攻勢を繰り返しながらも突破の糸口は掴めない。

 更なる焦燥感に駆られかかったところで、ふと国久に天啓が舞い降りる。


 このまま城攻めを行ったところで敵は本拠地天神山に鉄壁の防衛網を敷いている。あえて天神山のみに固執する理由は尼子家当主の意向より他にない。


(この兵数であの山を攻めとる事は出来かねる。ならば)


 それならば、天神山にほど近く、天神山と同規模の戦略的意義を持ち、天神山より遥かに攻略が楽な場所を入手できれば尼子軍全体としても勝利と呼べるのではなかろうか。名実ともに価値のある戦略拠点はないものか。まるで夢物語の様な話だが思いたってから国久の行動は早い。


 城攻めを陽動に配下の者を解き放ち、佐伯近辺の情報を集めさせてみると意外にも国久の欲していた条件に該当する場所が見つかった。


 白羽の矢が立ったのは天神山の南西、当時湿地帯に囲まれた堅城、備前沼城だった。

 

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