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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十三章・播州上月奪還戦二【天文二十三年六月十六日(1554年7月13日)】
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25・播州上月奪還戦二3-3

 

 やられた、と政元が気付いた時には既に手遅れ。


「まァまァ、皆の衆。静まろうではないか」


 小寺政職が絶妙の間を置いて動き出す。


 まさに鶴の一声。先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返った。


「……なるほど。七条殿の忠節は我々とて知らぬわけではなし、疑うなど恐れ多い。だが一方で堀殿の懸念も存分に分かる。我ら播磨衆、円心公の時代より続く播州の精鋭といえど昨今まるで奮わず、室津攻略中に備前の浦上と袋の鼠になり兼ねぬ」


 なんとも芝居がかった口振りから察するに、堀出雲守という『仕込み』が終わったのだろう。


「さりとてこの機会を逃すには確かに惜しく思われる」


「……前口上は良い。小寺殿はどうなさるのか」


 政元の質問に対し、政職はこれまた芝居がかった様子で口元に手を当ててせせら笑う。


「確かに七条殿の申される通り、今は千載一遇の好機。確かにこれほどの状況は存在せぬでしょう」


 しかしながら、と政職は言葉を続ける。


「皆さまもご存じの通り、室津一帯は綾部山から坂越にかけて峻険な山々が連なる天然の要害。守るに易く攻めるに難い。美作衆の足止めが無くなれば、三日と経たずに尼子は播磨に再度侵入しましょう。それを見越した上で、あとどのくらい美作は持ちこたえられますか」


 当然、答えは無い。それが分かれば苦労は無い


「それに、我ら同盟側の足並みが揃わぬのは予期できたこと。とはいえ、同盟の主軸たる陶と毛利が争い始めたとなれば、この機会に宍粟の宇野一党をはじめ国内の親尼子派が息を吹き返すことは必定。万に一つ、億に一つ、期間内に室津を攻め落とせなんだ時に我らは播磨国内の彼らと事構えねばなりますまい」


 一理ある。しかしそれでは播州統一の夢は遠のくばかり。


「では、小寺殿は、毛利殿が備中の三村殿と共に備前へと出兵して下さったにも関わらず、肝心の我らは座視するのみで動かずあることが正道であると」


 折敷畑の戦いの前後、毛利元就は家臣の井原元造を備中三村家のもとに送り込み、東備前最大の親尼子派・松田氏を攻めるよう依頼していたことは先に述べた。六月中旬のこの時点では、三村家当主三村家親は手勢を率いて派兵。松田氏の本拠地金川城の支城、富山城付近に布陣して西備前の攻略に乗り出した事が記録には残っている。


 西備前を巡る備中三村氏と備前浦上氏の関係は、正直あまり芳しいものではない。


「……ならば良いではありませぬか。備前の浦上には備中の三村殿が睨みを効かせてくれましょう。私どもの御着は先の戦で城の被害は最低限で済みました。が、城内の備蓄は少なからず消費しております。それゆえ我らは自領防衛に徹し、事の次第を傍観して勝つ方に付く。それの何が悪いのです」


「しかしそれでは時期を逸しましょう。勝てるときに勝つ。そうでなければ我らが先に消耗しましょう」


 それに、ここまで場が用意されていながら赤松総領家が動かぬとなれば他の播州諸侯への示しが付かない。現状有って無きがごとき赤松家の威信だが、それでも示さねばならないのが大名の矜持というもの。


「では、七条殿はお仲間の皆さまとご一緒に進軍すれば宜しかろう。名誉名声大いに結構。小寺は室津攻めには兵を出せませぬ」


 馬耳東風。突っぱねるように吐き棄てると、小寺政職は素知らぬ風に居直りをみせた。それきり政元がどのように説得しようとも、龍野赤松氏がどれだけ焚きつけようと、ただただ聞き流す事のみに徹する。


 埒が明かない。


 この日、評定は夕刻を迎えたことで解散となり、次の日へと持ち越しとなったが、翌日もその翌日も、議題が室津攻めとなると両派閥が言葉を尽くせど結論は先延ばし先延ばし。当主がそれと無く自分の意向を伝えたにも関わらず小寺氏側からの歩み寄りは見られなかった。


 本来であれば、悠長に評定を続けるほどの余裕はない。


 結局、置塩での会議はなに一つの結果も出せないまま、貴重な時間を空費しただけ。七月に入り、足踏みを続ける播磨国を置いて、美作平定を終えた尼子軍が備前侵攻を再開させると赤松総領家主導の室津攻めの夢は敢え無く霧散してしまった。


 尼子の狙いは築城途中の備前浦上氏の居城・天神山。


 七条赤松家は、嫡男政範と父政元が異なる勢力のもとで共に尼子軍を相手することになる。



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