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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十三章・播州上月奪還戦二【天文二十三年六月十六日(1554年7月13日)】
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25・播州上月奪還戦二3-2

 ここで晴政が当主自ら話を切り上げ、進軍を決めるほどの決断力があれば、赤松惣領家の後の歴史は大きく変わったかもしれない。


 だが、歴史は晴政にとってより厳しい道を選ばせた。


「……七条殿にお伺いしたい」


「なにか」


 先に動きをみせたのは小寺氏側、神西郡の堀出雲守が口火を切る。


 彼の実名は分からない。だが、播磨国神西郡南条郷を治める堀家は、かつては赤松家宿老衆の一角も成した名門。この物語の主人公、七条政範の曽祖父(赤松政則)の時代には、堀秀世という人物の名がが記録に残る。そんな堀家も、赤松惣領家が衰退した今となっては主君ではなく実力者である小寺氏に接近して命脈を保とうとしていた。


「……まずはじめに、七条殿の御義父君が寝返り、備前の浦上殿に屈したとお聞きしております。それは嘘か誠かお答えを頂戴したい」


 堀出雲守の言葉には隠し切れない悪意が乗せられている。


「堀殿、誤解を生む発言は控えて頂きたい。皆も知っての通り我らの当面の敵は出雲の尼子。彼の大軍勢と相対するために我らは同盟を結ぶ必要があった。それを知らぬ貴殿ではありますまい」


 対する政元の言葉には怒気が混じる。


「ほう、では事実ではないと。それならば、佐用殿が浦上殿に自身の妹御を嫁がせたのも、また事実ではないと」


「……詭弁が過ぎますぞ」


「否々、詭弁を弄されているのは七条殿の方ではありませぬか。その上で、七条殿はご自分の跡継ぎを備前の浦上の血筋ではなく浦上の一家臣の宇喜多の一族と婚姻されたとか。しかも元は何処の馬の骨とも分からん流れ者の妹だとか」


「それは……」


「家臣と家臣で縁を結び合うのは臣下の所業。佐用殿が備前浦上に降った何よりの証拠を、七条殿は如何な詭弁で真ではないと申されますか」


 どもる政元に、出雲守はすかさず追撃を食らわす。


 血筋の格の問題はどれほど言葉を尽くそうと弁明できるものではない。


 実際には、七条政範が嫁に迎え入れた雪姫を含め、宇喜多広維にまつわる血筋がどのような経緯を持つか、それを知らされているのは赤松家臣団の中でも極一部。六ヵ国の大同盟の結ぶにあたり、当主晴政に内々のうちに知らされたかどうかも分からない。


 もし広維の血の由来を知らされていたのであれば、さすがの晴政も取り乱したに違いない。


 赤松晴政という男は、今も昔も中央の細川晴元に忠節を誓っている。にも拘わらず、自らの実兄が、かつての宿敵細川高國の孫と繋がりを持ち、なおかつそれを同盟の(よすが)とする。


 細川高國という男の血は、今の赤松総領家が飲み込むには巨大な意味を持ちすぎていた。


 この日この場所で、かつての怨敵細川高國の孫の生存を知った上で、その男児を生き長らえさせていたと全員に宣言することは、政元の義父、佐用則答の忠節はもとより、当主晴政の威信とこれまでの方針に大きく傷つける可能性がある。


 ゆえに、この評定において政元は沈黙を保つしかなかった。


「…………」


「おや、押し黙られた。どうされましたか。七条殿は室津を討つことを大義名分に我らと室津勢を争わせ、双方疲れるのを待って備前衆が播磨に攻め寄せることは絶対に無いなどとどうやって断じられるおつもりですかな。それとも貴殿が備前衆と結託なさってこの場にいらっしゃるのではありませぬか」


 場が再び騒めく。六ヵ国同盟による尼子包囲網、その基幹となる二本の屋台骨が崩れた今、もともと赤松家臣団内の中にあった備前浦上氏への猜疑心を過剰に刺激していた。


「………堀殿、お言葉の訂正をお願いしたい。某の大殿への忠誠を愚弄されるお心積もりか」


「否々、まさか。私はそれなりの事実と可能性を申し上げたのみ。そう、あくまでも可能性の話。七条殿に二心が無いのであればそれで良し。ただし、私の話を聞いて皆様がどう思われるかまでは私の与り知らぬところではありますなあ」


 人間こうも悪意を持って言葉を放てるものか。堀出雲守は顔を侮蔑に歪めて政元をこき下ろすと、キッと視線を投げつけて着座した。


 広間のどよめきは止まず、憶測が憶測を呼ぶ。これでは政元がどの様に弁明しても言い訳としか聞こえまい。むしろ言葉を重ねるほどに要らぬ嫌疑を掛けられる恐れすらあった。



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