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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十三章・播州上月奪還戦二【天文二十三年六月十六日(1554年7月13日)】
215/277

25・播州上月奪還戦二2-1

 ―2―



 同、固唾を飲んで集団を待ち構える政範の目の前を、城方の雑兵が駆け抜ける。


 闇夜の森の中、松明の炎にあぶり出されたのは、恐怖に顔を引きつらせた敗軍の兵。落人同然の彼らは政範ら別動隊の存在に気付いた様子は無く、ただ一心に西の街道まで落ち延びようと必死になっていた。


「脱走兵かなにかでしょうか。どうされます、斬りかかりますか」


 弟に問われるまでもなく、政範は手信号で襲撃の合図を送る。


 城方がどの様な理由で城を捨てたかは不明。しかし、だからといって折角の好機を逃す手はない。敵戦力を一兵でも削り取りたい政範らに迷いはなかった。


 わっと左右から別動隊が斬り込むと、逃亡中の陶勢はたちまち算を乱した。予期せぬ襲撃を受け、ある者は討ち取られ、またある者は崖下へと落ちていく。恐慌状態に陥った元城兵らは、自分達の身になにが起こっているのか理解できぬまま一方的に殲滅された。


 およそ戦闘らしい戦闘はない。


 突然の遭遇戦に逃亡兵の群れは消滅。山裾を転げ落ちた谷底からはわずかに人の呻き声が漏れ聞こえたが、やがては夜の闇に消え失せた。逃げようにも街道は封鎖済み。今宵一晩生き残ったところで、明日の朝には村民総力を挙げての山狩りが行われる。


「籠り続ければ勝てぬ戦ではなかろうに。さては臆病風に吹かれたか」


 計算上の戦力は同等。あるいは改修を終えたばかりの防御施設を有する城方がやや有利か。


 その利を捨ててまで逃げるのであれば、何かしらの理由がある。不可解な城方の動きを探ろうとした矢先、ドーンドーンと大きく三度戦太鼓が鳴り響く。


「……戦闘終了の合図です。ようお勤めなさった」


 主郭が落ちたらしい。二人の若武者らにとっては暴れ足りず、いささか消化不良。だがそれでも自分達の父親が生きている方がずっと良い。


 喜び勇んで荒神山山頂の主郭部に向かうと、城内に残っていた陶勢は粗方駆逐され、生きて捕縛された城方は僅かに二人。どちらも播磨出身で、流れに流れ、食いつなぐために雇われた足軽の者だった。


「父上、ご無事でしたか」

「応、戻ったか。付き合え。今から尋問するところだ」


 見た限り父の部隊にも目立った被害はなく、政範は胸をなでおろす。


「この者らは……」

「律儀な奴等よ。雇われの身だが最後まで城内に留まり抵抗をみせた。食い詰め者とはいえ、一宿一飯の義理を知っておるのだな」


 討ち取られた城方の遺体は茣蓙(ござ)の上に並べられ、防衛側の総数を把握しやすくしてある。城内で残っていた陶方は、先刻行き遭った脱走兵よりもずっと数が少ない。


「……とはいえ、城の抵抗があまりに容易くてな。お前の所にどれくらいの数が行った」


 政範が見たままの数を伝えると、政元は顔をしかめた。


「おかしい、それでは数が合わん。ここの遺体と合わせても事前に聞いていたよりずっと少ない。それに、あの陶将らの姿もないしな」


 事前に逃げられたのか、そうであれば要らぬ手間が増えるな、と政元が愚痴ると、捕虜の二人がびくりと身を震わせた。


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