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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十三章・播州上月奪還戦二【天文二十三年六月十六日(1554年7月13日)】
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25・播州上月奪還戦二1-2

「行かねば」


 焦る政範には、表門を越えた父政元が城兵らの奸計によって包囲され、雨の様に降り注ぐ矢に射倒される錯覚に陥った。


「続け、父上の救援に向かう」

「…………」

 

 兄の焦燥感が伝染したのか、引き留める周囲の声も聴かず、弟の政直が兄より先に山道を駆けだした。慌てて政範も追いかけるが血気盛んな弟の足には敵わない。大成山は標高四町(400m)ほどの南北に小高い丘陵部。なだらかな山峰の鞍部に細い峠道が走る。古い時代には、この山と太平山との間にある菖蒲谷が上月城の水源地になっていた。


 政範らの通る経路は、その水源地までの旧道を利用するものとなる。


 彼らは一挙に目高までの行程を踏破すると、さらに寄延に足を延ばそうとした。


「待て。お前ばかりが先行したところで状況は変わらん。後続の到着まで息を整えろ」


 目高からの尾根伝い。やっと追いついた政範が弟の両肩をがしりと掴んで離さない。我に返れ、という落ち着いた兄の声は夜の闇によく通った。


「……ははあ、親を思う子の気持ちは分からぬものでもありませぬからなあ」


 追随してきた肥塚氏が笑い、夜風が額を流れる汗を乾かす。


 しばらく待っていると、残りの龍野勢も、地侍の力を借りて手探りで夜道を進んでくる気配があった。休憩がてら、少し開けた空間で点呼を行うと、幸いにして脱落者は無し。これで問題なく進軍を再開できる。


 そう思ったのも束の間、これから向かう荒神山に通じる道の先を、幾つもの光の群れが駆けてくるのが見えた。


「あれは……」


 狭隘な山道を通ってこちらに向かう松明。その数は二十か三十か。


「御父上殿の兵でない。下り首か、あるいは先んじて兵を回してきたか」


 光源はぞろぞろと列を作り、どんどん数を増やす。


 光源の速度からして、彼らは駆け足に近い。足先に何が落ちているかも分からぬ夜道をその速度で下るのであれば、それ相応の理由がある。


「……会敵しますか、それともこの場に兵を伏せますか」


 政直からの問いに、政範は待ち伏せと答える。冷静な政範の判断に、龍野赤松氏の重臣も大きく頷いた。


「よろしい。では、皆もそのように振舞え」


 別働隊は左右に散り、岩陰や木陰に息をひそめる。何も知らない松明の集団が、政範らのもとに辿り着くまでにそう時間は掛からなかった。


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