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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十二章・播州上月奪還戦【天文二十三年六月十二日?(1554年7月11日?)~】
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24・播州上月奪還戦4-2


「このまま包囲を続け、降伏か和議の使者を送りますか」


 正澄の提案に、政元が首を横に振った。


「……それは出来ん。たとえ和議が成立して一時の平穏が得られたとしても、必ず抗議の声が置塩の耳に入る。今の置塩に新たに陶を敵に回そうという気概のある人間はいない。皆勝ち馬に乗りたいのだ」


 置塩の赤松惣領家は、新興の安芸毛利氏と旧主大内氏を飲み込んだ周防陶氏とが対決を始めた事実をまだ知らされていない。だが、非情な現実を突きつけられたとき、保守的で事勿れ主義が大勢を占める置塩側がどう動くかを、これまで赤松家の内情を見てきた政元には手に取るように分かる。


 まず、彼らは上月城内の周防の人間を生かすことを考える。それから陶と毛利の戦いの趨勢が決まるまでは今まで通り上月に待機させ、その後の事はあとで考えればよいという腹づもりなのだ。


 そこに現場の負担は勘案されていない。


 人間、百五十という数字は決して少なくはない。仮に尼子が再度播磨に攻め寄せた場合、播磨諸侯は上月の陶軍の監視を行いつつ、尼子への対処を強いられることになる。ただでさえ兵数で劣る今の播磨勢にとって、敵とも味方とも分からぬ者百五十名は自らを縛る鎖にしかなり得ない。


「……その上で尼子との決戦に我らが敗れれば必ず播磨に牙をむく。彼らの国にはそれを行うに充分過ぎるほどの国力があるからな」


 赤松家は二度、播磨を捨てている。


 一度目は嘉吉の大乱、二度目は天文前期の尼子の東征。それがこの政情不安の中、三度播磨を捨てたとなれば今度は再興できるか政元にも分からない。人知れず、政元の顔に焦りの色が浮かんでいた。


「そろそろ物見が帰ってくる頃ですが……」


 と、正澄の言葉と同時に、表門前の川をざぶざぶと泳いで渡る兵士の姿をあった。


「……馬鹿者。あれではこちらの襲撃を相手に知らせてしまう。あとで誰に物見させたか報告させるべきです」

「良い。ああも賑やかにしたところで城内に動きがない。それだけで十分だ」 


 物見は戻ってくるなり、陶方がやはり固く城門を閉ざしている事を告げた。それは政元らの位置からでも見える。だが、奇妙な事に、正面の高矢倉にも火が点っておらず、城門付近を巡回する監視役の番兵の姿もないという。


「ふむ」

「やはり事前に密告があったと考えるべきでしょう。そうでなければ、南の曲輪群と太平山を捨てて我らの奇襲に備えるという選択肢はありえませぬ」


 城下から見上げるのに、灯りが点るのは荒神山のみ。わずか百五十名では三山全ての防衛は困難と判断し、主城となる荒神山に兵力を集中させる采配は確かに理に適う。


「……見破られたとはいえ、我らは攻めるしかありませんな」


 答えは最初から決まっている。


 山向こう、搦め手の方からドドンと全軍が配置についたという合図の戦太鼓が鳴り響く。


「さて、やらねばな」


 覚悟を決めるべく、政元は、一度大きく息を吸い込んで呼吸を整えると軍を動かすために大音声を轟かせた。


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