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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十二章・播州上月奪還戦【天文二十三年六月十二日?(1554年7月11日?)~】
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24・播州上月奪還戦4-1

 ―4―



 同(1554年7月13日)、夜。


 陽が沈みきった上月城下には、はたして同盟方の軍勢があった。


 内訳は七条・佐用家の手勢がおよそ百に、龍野赤松氏の軍勢が三百余。その他、佐用郡内の諸侯らからも百名程駆け付け、上月奪還に向けて五百名ほどの規模で城を正門と搦め手の二正面から展開させていた。


 対する陶方は、指揮官となる将八名を筆頭に、周防国出身の者が二、三十。それに素性の知れぬ雇われの足軽百少々を加えて合計百五十名ほどの兵士が改修中の上月城内に籠っている。


「……攻め取れますかな」


 不気味に静まり返った表門を、熊見川(佐用川)対岸の船場から見上げる七条政元に駆け寄ったのは、義弟の高島正澄。備前国内の諜報活動を終えたばかりの彼もまた、七条隊の一翼を担うべく正面から攻城を図るために配置についていた。


「政範はどうした」

「無事に肥塚殿とともに搦め手に。城攻めのいろはを教わるには充分でしょう」


 偽撃転殺。相手の注意を一方向に反らした隙に背後から襲撃を仕掛ける。城攻めの基本となる策ではあるが、実際に運用するとなれば経験を積むしかない。まして今の上月城は旧来の太平山だけでなく、寄延谷を挟んだ荒神山にも主郭が築かれ、荒神谷を越えれて大亀山方面にも台矢倉付きの出城が新設されている。


 視点を細かく見れば、これら三つの拠点を城内周辺の各所で高矢倉が新設されていた。


 これらの防御施設は、見通しが良く遮蔽物の少ないという山の斜面を利用した築城法で、寄せ手が攻め上がった際には必ず複数の場所から矢が届くように設計されている。最大効率の防御面で敵に足止めを喰らわせ、隙を突いて左右どちらかの山から挟撃を行うというのが、この上月の城の籠城時の戦略的思想となる。


 政元らが狙う陶将らは、普段、荒神山東の麓にある堀と高塀に囲まれた侍屋敷の中に兵を集めていると聞く。そこから奥の山城にまで逃げられては、川の対岸の狭い仁位山麓に陣を置く同盟軍の勝機は薄れる。


 予定では、安全な場所と高を括って酒宴を開いている頃合いのはずだが、先に川渡らせた斥候の報告では、それらしき物音が聞こえてこないという。


「……気付かれた、と思われますか」


 当初、同盟方は煽て挙げた陶将らを昼間巻狩りに駆り出し、疲弊した身体に大酒を飲ませることで酔いつぶれさせ、前後不覚の彼らに夜襲をかける手筈を整えていた。


 だが、先刻集落の酒屋で聞いた話では、今日はいつもよりずっと城に運び込む量が少ないのだという。


 侍屋敷に備蓄してある酒はそれほど多くはない。連日の酒宴で酒が無くなるたびに、毎度毎度川を越えて遣いの者が追加を融通するように迫ってきていたのだが、今日に限っては夕刻頃に一度か二度来たのみで、それきり途絶えている。


 これは同盟側にとって予定外の事態。


 夜の闇を味方に軍勢を集結させてみたものの、事前に手の内が露見していたとなれば逆に自分達が死地に飛び込む羽目になる。


「……無理をすれば攻め取れぬ数ではないが、そうなれば利は無い、か」


 現段階の同盟方に求められているのは、被害をいかに少なくできるか。彼らにはまだ尼子軍主力との決戦を後に控えている。いかに早く城内施設と兵士に被害がない状態で城を奪還できるかが肝となる。


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