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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十二章・播州上月奪還戦【天文二十三年六月十二日?(1554年7月11日?)~】
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24・播州上月奪還戦3-2


 当然、陶将八名はこの射手として参加していた。


「……そろそろ弓の出番か」


 筋骨隆々、平均的な播磨人より大柄な周防人八名に、さらに大きな太田則近ら屈強な男達が立ち並べば構図的には非常に絵になる。


 陶将各人にはそれぞれ播磨の人間が弓の介助として側に控え、則近もまた陶将の一人の補佐についていた。則近ら御側付きの者達は、獲物の接近に合わせて片膝を地面につけ、右手を握革の下に置き、反対の手で本筈の下を支えながら射手に捧げるように弓を渡す。


 これは上の立場の者に弓を渡す際の作法となる。


 自分達よりも頭ひとつ背丈の大きな人間が恭しく跪きかしずく様は、よほど気分が良かったらしい。陶将の一人がふふんと鼻を鳴らした。


「早く、矢を寄こせ」


 命じられるまま則近は矢を手に取る。矢を渡すときには、同じく片膝を付け、左手で射付節(いつけぶし)(もっとも矢尻に近い節)を持って渡す。奪い取るようにして矢を番えると、陶将は狙いを定めた。


 今回の狩りは、例年と違い時期が少しずれた。そのため郡内の田には苗の作付けが終わり、青々とした葉を伸ばし始めている。その上、合戦準備の合間にしか草刈りができず、畦にも夏草が伸び放題のまま。視界が悪く、やや狩りの難度が上がっている。


「…………」


 がさがさ、と物音が近づき、次いでひと際大きく土手の藪が動く。音の先に皆の視線が集まった。


 茂みから飛び出してきたのは、数頭のシカ。


 村の者達が自分達の田畑に害獣が迷い込ませぬよう、必死になって大きな音を立てて追い散らせたもの。ひとつの群れが丸々追い込みにかかり、恐慌状態になっていた。


 が、周防の武人は恐れない。両足をがっしり据え微動だにせず、自慢の筋力を活かして弓を力強く引き絞った。


「来ますぞ」


 則近の言葉に、すうっと一息呼吸を整え、両眼で狙いをつけて矢を放つ。


 唸りをあげて飛び立った矢は、見事に先頭のシカの眼球を捉えて一矢を以って絶命させた。ピィと一声挙げてどさりとシカがもんどり打つのを確認すると、他の陶将らも次々と矢を放ち、面白いように山の獣を射倒していく。

 

 彼らが狙うのは主に首や腹といった比較的柔らかい部分。致命傷狙いとなるが最初に矢を放った者のように硬い頭蓋骨に守られた頭部を狙う者はいない。


 たちまち群れ全てを狩り終えると、少し場所を移動して再び獲物を待ち伏せる。


 こうして気温が上がる昼までに、シカ二十八、イノシシ三、それに見事なオスの雉が一羽というなかなかの成果を得た。昼を過ぎてからは天候が急変したために狩りは解散となったが、上々の追い込みを行ったとして大西次郎兵衛という人物が領主より銀が下賜されている。


 獲物は一番大きなシカと雉を周防の人間が持ち帰り、あとは皆で分け合ったのだという。


 意気揚々と上月に戻る際、陶将のひとりが立ち止まり、「播磨人はどのようにして山の獣を食うているのか」と問うた。その問いを、待ってましたとばかりに「播磨では野趣溢れる肉を、(ひる)と味噌を入れて煮込む」と播磨人は答える。


 それがどういう意味を有しているのか、それを勘付いた者はこの時点では誰も居なかった。

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