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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十二章・播州上月奪還戦【天文二十三年六月十二日?(1554年7月11日?)~】
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24・播州上月奪還戦3-1

 ―3―



 天文廿三年六月十六日(1554年7月13日)、早朝。


 天候は快晴。青々と茂った山木を踏み分けて、ホーイ、ホイと特有の掛け声とともに若い勢子衆の足音が四方から響き渡る。夜明け前に集められた彼らは、村ごとに揃いの小袴を着込み、手には竹杖を、脇に枝打ち用の小刀を携帯する事が求められる。さらに自分の意気込みを魅せたい勢子には、真白のねじり鉢巻きにたすき掛けという出で立ちも許されていた。


 勢子の役目は、騒ぎに騒いで追い立てること。


 平地の少ない播磨国では、追物射(おいものい)よりも直接獣道に分け入り、獲物を射手のもとへと誘導する狩猟のほうが主流となる。この日の巻狩には、日の出前から佐用郡内よりかなりの人間に動員がかけられていた。


 一応、夜明け前の集合にはそれなりの理由がある。


 狩りの対象、シカやイノシシなど山の獣の生活サイクルは人間のものとは大きく異なる。一般に夜行性が主と思われがちな彼らだが、実際は昼夜を問わずほぼ一日中動き回り、食事と食事の合間にわずかな睡眠を取ることを常とする。


 そのために、狩人は山の獣が活性化する薄明薄暮の時間帯を狙う。


 この時間を狙っていけば、餌場を巡回している最中の獲物と出くわす機会が増え、獲れ高に格段の差が出るのだという。山の獣の感覚が鋭敏な時間帯を選び、獣の時間感覚に人間が合わせて動く先人の知恵。


 そんな先人の知恵のひとつに、この時期の雉が夜明け前に母衣(ほろ)を打ち始めるから探せというものがある。


 雉は言わずと知れた山の御馳走。


 雉の旬は冬なのだが、春から夏にかけて雉達は繁殖期を迎える。その時、オスの雉は自分の縄張りを主張するために、「ケーンケン」と2回大きく鳴きながら2回羽ばたく母衣打ちと呼ばれる独特の習性を持つことが狩人の間では古くから知られていた。


 いわいる雉も鳴かずば撃たれまいという諺の謂れなのだが、雉撃ちの者はその声を頼りに獲物を探す。さすがに春先ほどではないにしろ、残暑の頃までは雉達の縄張り争いが止むことはない。


 獣の音を、匂いを、糞などの痕跡を辿って、山を谷を、勢子たちは縦横無尽に獲物を追い駆け回る。


 このときの勢子の初期配置について、おおまかに二種類。勢子を山の谷側に置いて山を登らせるやり方と、峰側に置いて山頂から獲物を追い落とすやり方が存在するのだが、この時期に播磨国で行われていた狩猟法に関する記載がないためよく分からない。


 しかし、もっと古い時代、付近の箕覆(みのお)山で秦河勝が行った狩りの手法については現代でも伝わっている。彼らが秦河勝のやり方を踏襲していたのであれば、後者の勢子を山の峰側に配備させて獣を追い落とす。時には猟犬の使用もあったらしい。


 山から逃げてきた獣がそのまま集落内に入らないよう、里の者は大声をあげたり鐘や太鼓などを叩いて驚かし、そうして包囲の輪を次第に小さく整えて、四方八方で追いに追われた獣を狩りの花形、射手のもとへと誘導する。


 それが巻狩のおおまかな流れとなる。


※箕覆山の秦河勝の時代……飛鳥時代、おそらく三本卒塔婆の物語。


 秦河勝は厩戸皇子(聖徳太子)に重用された功臣。後に蘇我入鹿に憎まれ赤穂に逃れて隠れ住んだという。彼が奥矢野の箕覆山にて狩りを行った際に、勢子を峰に置き、自分は谷底で待ち伏せていたところ大蛇と行き遭ったという伝説が存在する。

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