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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第二十一章・芸州折敷畑合戦【天文二十三年六月五日(1554年7月4日)~】
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23・芸州折敷畑合戦2-1


 ―2―



 同日早朝、わずかに夜が白む。


 鬼気迫る形相の元就らが桜尾の本陣に到着すると、毛利家臣団一同がどよめいた。


「……父上、お戻りになられましたか」


 嫡男隆元の声色は普段と異なり覚悟に震えている。周囲の出迎えも早々に、隆元は直ちに軍議を再開させた。


「早速で御座いますが、此度の戦、打って出た方が吉か、あるいは固めて守ったほうが吉か、どちらが良策と思われますか」

「…………」


 折敷畑山の陶軍との決戦の場を城内とするか、城外とするか。それだけでこれからの方針が異なってくる。


「西方の山側は見てきた。他はどうなっている」


 この時元就が気掛かりだったのは東側。川向うにある安芸府中の白井氏と広島湾を挟んだ先、安摩(あま)庄矢野浦の野間氏。両者は安芸国内の古い国人衆で、特に野間氏は千を超える手勢と海上の要衝・波多見島とそれを警護する強力な水軍を有していた


「仁保の香川殿からは」

「まだ、何も報告はありませぬ」


 毛利軍の東の最前線、仁保城には現在毛利方の将・香川光景が城代として入っていた。


「恐らくですが、今は白井氏は捨て置いても良いかと……」


 保木の城は先月落としたばかり。撤退する白井氏が城内に残した物資から察するに、十二日からの毛利軍の動きは彼らの想像を遥かに超えていたらしく、そこまでの戦備えが整ってはいなかった。


 これには毛利軍の将全員が頷く。


 しかし、そうなるとやはり問題は野間氏。当主・野間隆実は熊谷信直の娘を介して元就の次男吉川元春とは相婿の関係にあたるが、静観を決め込んでいるのか、元就が隆実のもとに送った援軍要請の使者は戻ってきていない。


「……野間殿が来てくだされば心強うございましたが、彼の者も忠義者。主家に歯向かえというのは野間様にとっては酷な選択かも知れませぬ」


 聞けば、南の厳島に陶方の水軍が現れたという。しかし、その中に野間水軍の旗印を見たという報告はない。野間は毛利と陶の間で絶えず揺れ動いている。彼らを味方に引き入れるには、やはりこの戦に勝つ必要があった。


「とは申されましても、陶を相手に二正面では勝てないのではありませぬか」


 そう言ったのは、口羽通良。


「……桜尾は小城なれど三方を海に囲まれ、大軍と言えど容易には攻め上れませぬ。ここは皆一丸となって城に籠りますれば、例え陶であっても我らを穿ち抜けますまい。寡兵であっても勇猛果敢に籠城する我らの姿を見せれば、対岸の野間殿も心を動かされましょう」


 流々と述べる通良の言葉は一理ある。数名の人間が、なるほど確かにと相槌を打った。


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