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ふたりの天下人ー西播怪談実記草稿から紐解く播州戦国史ー  作者: 浅川立樹
第一章・備州騒乱【天文三年~六年頃(1534年~1537年頃)】
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02・備州騒乱1-1


【参照事項】


年号……天文三年~六年頃(1534年~1537年頃)。

場所……播備作三国(兵庫県南西部~岡山県中部)



《 1 》


 天文三年(1534年)、夏の始まり。


 摂州大物での大戦から三年、それでも西国の安定には至らなかった。

 戦後、多くの犠牲の上に成り立つはずだった平穏は、蓋を開けてみれば既にもぬけの殻。畿内中央での政権派閥争いは翌年も翌々年も続けられ、幾度もの分派と連合を繰り返しては、やがて宗教勢力をも巻き込んだ新たな兵火へと繋がる種火が育ちつつある。

 

 以前は、対立軸が二つと明確だったが、片一方の勢力が倒れたことで大きく旗を振る存在が消えたことで、第二、第三の勢力が新たに我も我もと湧き出でたことで事態は悪化。畿内の社会情勢の混迷は深刻なものとなった。

 

 その結果、先行きの見えない中央政権に愛想を尽かせた有力貴族は二次被害、三次被害を恐れて都を離れ、、守護大名達も彼らを受け入れ、その人脈を使って幕府の影響下から抜け出そうと独立の道を選んだことで、かえって地方の方に文化の華が根付き、日の本全土、各国が国ごとに独自の発展を遂げていく。


 こうした時代の波に乗れぬ者は息を潜めるか没落するしかない。都に残された人間は、たとえそれが高家の女官であっても、日々の食事を得るため夜毎辻に立たねばならぬほど困窮していった。

 

 西国播州においてもまた、安寧のときは訪れない。

 

 当初こそ、赤松家の復権は播磨の国人衆らに歓迎され喜び沸いたが、新当主・赤松晴政の目指す中央集権型の政治は、旧態依然の政治体制に慣れてしまった国人衆側とは凡そ相容れなかった。まもなく播磨では、赤松家に反発する土豪達は浦上氏残党と結託し合い、各地で武力蜂起が勃発。一時は赤松側の勢力が圧倒されてしまうなど、その統治情勢は極めて不透明なものとなっていた。

 

 だがそれでも、彼らが勝者だったからこそ、まだ状況的には恵まれていたと言える。

 悲惨だったのは、敗者側。

 備前浦上氏にとって、この三年間は塗炭の苦しみだった。

 

 敗戦後、彼らは、村宗の遺児・虎満丸(後の浦上政宗)を暫定的に当主に据えることで、体面的には家の存続を保たせることに成功していた。


 だが、有力家臣を一度に失った傷は容易には拭えるものではない。


 主家を見限って出奔する者が相次ぐ中、彼らを呼び止めるだけの力はなく、十全ではなくなった浦上領は周辺諸侯からすれば絶好の獲物として映っていた。播磨の赤松は言うに及ばず、備中三村氏、美作後藤氏など、浦上領に食指を伸ばす勢力は後を絶たず、絶望的な状態ながらも浦上家臣団は満身創痍の中でも戦に出向くしかなかった。

 

 そんな疲弊した浦上家臣団を心胆寒からしめたのは、大物崩れの翌年。

 

 出雲守護代・尼子経久による美作国侵攻。

 

 多少歴史に明るい者ならば出雲尼子氏を知らぬ者はいない。

 

 尼子氏は家格としては新興の部類に入るとはいえ、彼らの主君、尼子経久(あまごつねひさ)は一代で出雲の支配権をもぎ取り、戦国期、西国随一の謀聖として後世名を轟かすほど傑出した人物だった。


 当時、喜寿を迎えていた経久の頭脳は、老齢にあって尚冴え渡り、摂津での浦上氏惨敗の報を知るや否や、すぐさま美作国へ派兵を決めて瞬く間に国境の砦を攻め落として橋頭堡を築き上げると、地元土豪達に全面降伏を迫って支配下に置くことを成功させていた。

 

 この尼子の急襲は、備前国を越えて畿内一帯まで轟き渡り、播磨赤松方からも尼子家に走る者を出すほど、謀聖の二つ名に違わぬ見事な手腕だった。

 

 しかし、このまま一挙に浦上氏滅亡かと思いきや、待ったをかけたのは意外な存在だった。


 いかな策謀の天才であっても、時代全体を見通せるとは限らない。尼子氏が美作国を抑える前年、出雲の隣、石見国で興った技術革新は謀聖の頭脳すらも凌駕してみせた。

 

 時としてこうした偶然があるからこそ、歴史という生き物は侮れない。

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