幕間6
―――少し現代に戻る。
いよいよ私の頭がこんがらがってきた。
「うん、赤松政範……失礼。まだ七条だったね。彼を中心に考えればいいよ」
七条政範。一部の資料では、この時期七条姓ではなく祖父と同じ佐用姓を名乗っていたともいう。彼を機軸として考えると、彼の父親は赤松家当主の実兄、祖父は浦上氏当主と義兄弟、その上、細川高国の孫を妻に娶ることで新たに山名家当主の実弟からは義理の甥という婚姻関係を結ぶ。
「……うわ、ややこしいですね」
「仕方ないさ。むしろ当時の弱小勢力はいつ裏切りに遭うか分からないから、せめてものお守り代わりに互いを血縁でガチガチに縛ろうとしていたものさ」
血筋を残す。その為ならば昨日の敵と明日の敵とも血縁関係になる。
「政範さんのお父さんは、自分の義父親が浦上村宗さんの隠し子を匿っていた事を知っていたと思いますか?」
政元と則答の関係。
話の筋的には、私と老人は政元も二人の女の子の正体を知っていたか、薄々勘付いてあえて見て見ぬ振りをしていたのではないかと疑い、青年は戦災孤児を各々の家に養子縁組していくのは領主の役目としては普通すぎるので案外知らなかったんじゃないかと笑う。
「……知らずに政元も自分の屋敷に置こうと思わんだろう」
「否、政元だからこそ気づかなかったんだ」
しばしの談笑。取り留めのない会話。
「それにしても、ここまでの流れをお聞きしても、彼の活躍はあまり無いようにも感じます」
この物語の主人公は赤松政範。しかし主人公らしい目立った活躍はなく、佐用郡へ来てからは子供の世話をしたり、祖父に騙されて人質になったり、ただ状況に流され、与えられた役割を甘んじて受けるだけの凡庸な人間のような印象を受ける。
「そうさな。彼は英雄ではないかも知れない。けれど、彼は彼で非常に魅力的な人物さ。彼の婚姻まで話をした。少なくともこの時点の西播磨において、彼はただの一地方豪族の青年から、四つの勢力を束ねる大きな要石としての役割を担わされることになったわけだ」
「間もなく彼もその才能の片鱗を見せ始めるだろう」
そういって老人は酒で口唇をしめらせて、再び刀身を構える。そういえば私はずっとその刀の存在が気になっていた。
「まさかその刀が細川高國さん伝来の……」
「否、この刀は先祖伝来の古い時代のものではあるが、明確に違うと言える。戦時中に軍刀用に拵えを変えて、目釘や梅花皮なんかも新しくしたんだ。けれど、刀剣を扱う腕が悪かったらしく訓練中に竹束を斬った際に刃毀れをしてしまったよ」
老人が見せてくれた刀身は、なるほど確かに僅かに欠けていた。
「兎にも角にも高國の刀は、天文二十二年頃には備前国にあったわけだ」
そして、この物語が終わる頃には高國の刀の行方も分かるだろうさと老人は少し悲しそうに笑っていた。
―――チィン……。
暗く霧に阻まれた佐用の夜に、金打の音が冷たく響き渡った。




