転生なんてアニメの世界の出来事だろ?
「……い……! おい! 大丈夫か?!」
ん……もう朝か? いや、父親の声とは全く違う。何が何だか分からずに目が覚めると、そこには四十歳くらいのおじさんが顔を覗き込んでいた。
「ふぁ?! だ、誰ですか?!」
突然飛び起き、パニックでそのまま後ずさりをする俺を不思議そうに眺める男性。
太陽の光を浴びて輝く赤髪に、対比して引き立つ鮮やかな青眼、かなりガッシリとした体系。
「誰とは失礼だな! お前、ここで倒れてたんだぞ? それとも……寝てたのか?」
その男は不思議そうに首を傾げた。
俺はどうして倒れて……? そうだ俺殺されて……っ!!!
「俺を殺したのは?! 誰なんですか!」
突然食いついたように近付いた俺に男は目を見開いてギョっとした。
「何だよ……お前死んでんのか?! うげっ! 幽霊なんだな?! 助けてくれ! 白露!!!」
俺は、幽霊なのか? 自分で自分に問いかけてみた。だが求めている答えが返ってくるはずがない。
男が大声で命乞いをするように助けを求めると、馬車の中から女性が降りてきた。
「気持ち良く昼寝をしていたというのに……ゼル、後で覚えておれ」
冷たい口調で淡々と言葉を並べるこの女性……近くで見るとかなり綺麗だ。肌も白く艶やかで、しっとりとした黒髪は肩上でその毛先を揺らしている。翡翠のような瞳も、彼女の美貌を一層引き立たせていた。
「こいつ死んでるんだとよ! 白露にも見えるか?! まさか俺だけに見える幽霊じゃねぇのか?!」
男は年に似合わず頼りなく女性に縋り付いている。そんな男を払った女性は溜息をついて再び口を開く。
「お主……どこの国の者じゃ? 殺されそうになったにしても血に塗れておらぬが故、夢ではないのか?」
「夢……じゃあここは何処なんだ……。俺は日本に住んでる」
俺が焦りながらそう話すと、二人はキョトンとして顔を見合わせた。何か可笑しい事を言っただろうか?
「日本……? そんな国は無い筈じゃが?」
「こいつやっぱり怪しいぜ? どうする?」
日本を知らない? そんな国の住人が地球の何処にいるだろうか? 日本から遠く離れた独立民族ならば話は別だ。だがこの二人、ちゃんと日本語は通じる、それに衣服や顔立ちも日本とさほど変わらない。もっと言えば、この女性は着物を着ている。それなのに日本を知らない? 俺からすればそっちの方が怪しい。
「俺、殺されたんだ! 20xx年12月24日……いや、25日に。バイトの帰りに背中を誰かに刺されて……それで!!!!」
俺は涙を流しながら必死に二人に訴えた。どうして俺の話がこんなにも伝わらない? どうして理解してくれないんだ……
「ちょ待て待て待て……落ち着け? まず、今は17XX年だぞ? 頭でも打ったのか?」
――は……? この男、何を抜かし始めた?
「それにバイト……とは何じゃ? 魔法の一種かの……?」
――魔法……?
「なんだぁ? こいつ……記憶喪失にでもなってんのか?」
「それしか考えられぬな」
目の前で二人が淡々と交わす会話に追いつけず、次第に頭が痛くなってきた。
そして浮かび上がる最悪の心当たり……。
――異世界転生
そう、アニメが大好き所謂“オタク”の俺が大好きなジャンル、“ファンタジーもの”に最近多い異世界転生……
【異世界転生】
死んで異世界で生まれ変わり、新しく人生をやり直すというもの。
「やっと辻褄合った……」
――俺はやっぱり一度死んでいたのだ。
まだ一ミリも実感できずにいるがな!