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09話。ナフの村。ゴブリン討伐への準備。


 ウルトの町を出てから数日が過ぎた。

 春先の空は涼しく透き通っているのに、俺の気分は晴れないまま街道を進んで行く。

 と言うのも、旅路に出てしまえば道中はなだらかな道と同じく平坦な物であり、あまり聖教徒として常識的なことを教える機会もない。

 数日、淡々と街道を進み、ゴブリン討伐の為に田舎道を山の方へと進む。


(意気込んで決意したのに……なんだか肩空かしだな)


 旅具を買い与えたので、夜はぬいぐるみと一緒に毛布で寝るようになってくれたし、一々言わなくても日用品で身形を整えてくれるようにもなった。

 俺よりも遅く寝て火の始末をしてくれるし、俺より早く起きて出立の準備も済ませて待ってくれている。

端的に言って助かっている。

 普通にありがたいので、感謝の意思を示せば嫌そうな、と言うか辛そうな瞳をされるのが、とても気疲れすると言うのは贅沢な話なのだろうか?


(と言っても……)


 実際に疲れてしまう。

 元々人との関わり方を避けて来た俺なのだ、こんな特殊な女の子と打ち解けようと思ったのが無理難題であり、常識的なことを教えて行くのには難易度が高過ぎるのだろうかと早くも弱音が漏れそうになるが、誰も聞いてくれないので無言で歩き続けた。

 道中、歩きながら。


「ご主人様」

「なんだ」

「下の履物が窮屈で、歩いていると気になるですが……これは、脱いではいけませんか?」

「……痛むとかじゃなくて、窮屈なだけ?」

「はい」

「じゃあ慣れてくれ」

「わかりました」


 なんてろくでもない会話があったこともさっさと忘れようと思う。

 そんなこんなで、山間の村へと到着。


 初めて立ち寄る村だが、木の柵で囲まれただけの、林業の合間に狩猟で暮らす小さな村で、ナフの村と言うらしい。

 まばらに木造の家が建ち、軒先には造りかけの籠が並んでいたり、野菜や鹿の肉が干されていて、家の裏には小さな畑がある。平凡な山間の村だ。


 手短に村長へ話を通せば、民家に泊めてもらうのではなく、村外れの納屋を宿として都合してくれた。

 もちろんこの手の納屋は村へ害成す狼藉者を閉じ込めたり、村人の懲罰房として使われることも知っているが、ルーナを連れている以上、下手に歓待されても面倒なので都合は良かった。

 整えてくれた納屋は、土間の床に茣蓙を敷き、藁束にシーツを被せただけのベッドが一つだが上等だろう。

 そうこうして、しばし休息を取ってから、これからのことをルーナに話すと、また訳のわからない話になった。


「?」

「いやいや、そんな……首を傾げられても」


 そんな可愛く首を傾げられても、と思わず言いそうになるくらい、乙女に着飾った女剣士の格好できょとんと首を傾げるルーナは、びっくりするくらい愛らしいことになっている。

 元の顔立ちが愛らしいのだ、おかしな格好をしていなければどこに出してもおかしくない美少女と言っても過言ではないのだが、村に到着する直前、奴隷服から今の服に着替えて貰った際、着替えの指示を出せば即座に山道で素っ裸になれる神経はやはり理解不能で、慌てて身体ごと目を背け、この子の羞恥心的な物はどうなっているのだろうと頭を抱えたものだった。

 それはともかく。


「昼過ぎか日暮れまでには帰れると思うから、それまで待っててくれ」

「? ゴブリン討伐に行くんですよね?」

「そうだと言っている」

「闘技場で何度か戦ったことがあります。大きくて、爪と牙が危険ですよね?」


 大きくはないだろう、と言いかけて確かに少女の体格から見れば十分大きいか。

 野生の猿より二回り程大きく、猿よりも鋭い爪をしている。


「それが俺の仕事だからな」

「わたしも行きます」

「?」


 今度は俺が首を傾げる番だった。


「ゴブリン討伐に行くんだぞ?」

「はい」

「危険なんだ」

「はい」

「だから待っててくれ。用事がなければ外にも出るな」


 都市部でも危険視される禁呪持ちは、魔導士と言うだけで奇異な視線を向けられる田舎では尚更良い顔はされない。

 その上、共同作業が基本の村社会で奴隷のような極端な身分の者も均衡を崩す異端として忌諱されるのが普通だ。

 村長には故合って動向を共にしている少女だとだけ紹介したが、奴隷の首輪をしきにり気にしていた。


 ルーナは奴隷を自称して譲らない上に魔法まで使える。

 村人と余計ないざこざを起こされても面倒なので大人しくしていて欲しい。


 ついでに、この手の、聖教会の教えよりも村の風習や土着信仰に則り日々を送る人達との微妙な距離関係。

 この規模の魔物被害で王国騎士団は派遣出来ないが、巡礼騎士が慈善事業として村を助けることで、聖教会の教えを売り込む切っ掛けとしている。

 噂を立てて貰うことで、聖教会は禁呪持ちを制御出来ている的な宣伝文句にも利用される等々。

 その辺りの機微をなんとか解説して行くのだが。


「皆で一つの目標を持って作業をしてる土地や場所では、異端者はとにかく面倒がられるんだ。だから大人しく待っていてくれ」

「?」


 やはり首を傾げられる。

 窓の無い納屋は昼でも薄暗く、目だけが綺麗に輝いているのが好奇心旺盛な仔猫のようだ。

 そんな瞳が思い至ったように開かれ、納得行ったように頷かれた。


「わかりました。わたしが元剣奴なのをお忘れになっているのですね。大丈夫です、安心してください、戦えます。ご主人様はこの命に代えてでもお守りしますので」

「覚えてる。そうじゃない。女の子が戦いなんてしなくていい」


 見世物になりに行くわけじゃない。


「ですが……ご主人様が危険な場所に向かわれると言うのに待っているだけだなんて、戦闘訓練を受けた奴隷としてはありえません。どうぞ剣として、盾としてお使いください」


 通常の女剣奴ならば、そんな訓練は屈強な剣闘士達の歪んだ悦楽を満たす余興の為の下準備でしかないのだが、本当に勝ち残っていたルーナには当て嵌らないのだろう。

 だが、そう言う問題ではない。


「俺が持つ禁呪について、一通り説明したよな?」

「はい。大丈夫です」


 いや、大丈夫と言われても……確かに纏鎧魔法の腕は並ではないのだろうが。


「邪魔になるんだってば。闘技場で見たろ、禁呪を発動させたら見境なく生きてる生物を襲うようになる」

「邪魔になるようなことはしません」


 表情こそ変わらないが、瞳は硬く、声色は自信たっぷりだ。


「気が散る。それに今度は武器を持つ」

「それでも構いませんが?」

「防げるとでも?」

「はい。それに、ご主人様になら斬られても構いません。どうぞお気軽に斬ってください」


 相変わらず愛らしい真顔のまま、常識が吹っ飛んでいる。


「俺が構う。気軽に斬られるな。いいから待ってろ。命令だ」

「……」


 憮然としているルーナの瞳を覗き込むようにして言う。


「わかった?」

「わたしは頭が悪いので、よくわかりません……」

「大人しく待ってればいいだけだって。難しいことなんてないだろ」

「ですが……ゴブリン討伐に行くんですよね?」

「……」


 また会話が堂々巡りになりそうなので、俺は口を噤んだ。


「……自分の意思で、そうすべきだと思ってるのか?」

「? むずかしい話はわかりませんが、奴隷として当然です」

「……」


 その当然がおかしいと言っているのだが。


(本当に……俺じゃなかったら、どうなってたんだろうなこの子)


 無表情の中にある美しい瞳を眺めて、ぼんやりと思う。

 どんな命令にでも躾けられた犬のように、喜んで従うのだろう。

 何も考えず、喜んで搾取され、笑顔のまま酷使され、使い潰される少女。

 そんな光景を思わず想像して嘆息が漏れる。


(……どうすればいいんだか)


 自らの意思でついて来たいと言っているのなら諭しようもあるのだろうが、こんなにも歪んだ奴隷根性で動く少女へ、なんと言えば理解して貰えるのか。

 思考を巡らせるが、本職の聖職者でもあるまいしそう簡単に上手い言葉は浮かばない。


「……少し手合わせしてみるか」

「え」


 ルーナは呟く。

 村までの旅路で、日課であった剣の鍛錬を再開させれば、自分も訓練をして良いかと聞いて来た。

 よっぽどもう戦う必要なんてないのだと諭そうかと思ったが、魔法は普通の市民でもきちんと資格を取得すれば街中で使う許可も下りて働き口も増える。折角の才覚を鈍らせるのも上手くないと思ったので好きにさせることにした。

 基礎的な運動や魔法の制御訓練に精神統一をしていたのでまだまだ腕は衰えていないだろう。


「あ……剣のですね。わかりました」


 俺が胸甲と黒い革手袋を荷物から取り出すのを見ながら残念そうに言う。

 なんのことだと思ったのか、詳しく聞きたくないのでさっさと納屋から外に出た。

 納屋の前は道とも広場ともつかない幅がある。十分だろう。


 春先の陽気に誘われて、村人も屋外に茣蓙を敷いて籠かなにかを作る手作業をしていた。

 手を止めて、顔を上げてこちらに注意深い視線を向けて来る。


「……」


 軽く会釈をするが、硬い雰囲気は変わらない。

 近隣にゴブリンが住みつき、家財や日用品が盗まれる被害が既に多発している現状なのだ、これで家畜が襲われでもすれば村全体が飢える。

 薄氷に覆われているような緊張状態なのも仕方ないだろう。

 さもありなん。

 あまり気にしても仕方がないので、後について出て来たルーナへと向き直って話を進める。


「えーと、それじゃどんな勝負にしようか。俺から一本取るか、ルーナが疲れ果てて根を上げるまでやるか?」


 長剣の鞘と柄を紐で固定しながら問いかける。

 ルーナの腰に下がっている剣は刃を潰してあるのでそのまま使えばいいだろう。


「三合の打ち合いの中で、ご主人様がわたしを捕まえることが出来ればご主人様の勝ち、と言う勝負でどうでしょう。そう言った闘技がありました」

「……」


 あ。もしかして、俺、この子に舐められてるのか?

 言っている言葉や態度こそ真摯に俺の役に立ちたがっている様子だが、結局は俺の気遣いや、自分で考えて欲しいと言う頼みを無下にして、奴隷らしいことをしたいと歪んだ我を譲ろうとしないのは、そう言うことなのだろうか?


 通常時の俺は大したことはなく、禁呪で暴走するだけの、戦士としては三流だと思われているから俺の言葉を素直に聴いてくれないのかも?

 成り行きのまま突拍子もなく始まった主従関係であり、本来俺につき従う理由なんて無いのだ。もしかしたら本心では迫られて右往左往する俺の反応を見て面白がっているんじゃないか、そんな懸念まで浮かぶ。

 ここで俺の強さを示し、尊敬を勝ち取ればもう少し俺の言うことを素直に聞いてくれるかも知れない。


「俺がルーナを捕まえれば、俺の勝ち。それでいいんだな?」

「はい」

「じゃあ、それで行こう」


 俺は黒い革手袋を嵌め、長剣を自然な体勢で片手に保持する。

 と、ルーナは闘技用の手甲を嵌めるだけで、剣を抜く気配が無い。


「剣は使わないのか?」

「ご主人様に向ける剣なんてありません。むしろ腕を封じましょうか? 闘技場では最終的にそうしていましたが」


 やはり戦士としては完全に舐められているようだ。

 誰かに誇れるような旅路では無いが、巡礼騎士としてずっと旅を続けて来た。

 剣技にはそれなりに自信のような物も持っている。神経にささくれ立つ物を感じた。


 これまでの道中に積もった苛立ちの所為かも知れないが、なんだかずっと腹の底にある不快感が晴れない。

 肩を回して身体をほぐしながら言う。


「好きにすればいい。ルーナが勝てば一緒にゴブリン討伐に行こう。それだけの腕があると認める。俺が勝ったら大人しくこの村で待つ。いいね?」

「はい」


 村人から奇異な視線を向けられているが、どうしようもない。

 軽く腰を落として、始まりの合図を告げる。


「それじゃ、始めよう」

「はい」


 お手並み拝見だ。

 俺は地面を蹴って駆け出す。

 一足飛びで距離を詰める。


 ルーナは動かない。長剣で動きを制する必要も無い。

 目の前に近づく小さな身体。まだ動かない。動く気配も無い。


 俺の眼前に直立している少女の身体。

 宣言通り、ルーナは剣も抜いていない。

 綺麗な瞳で俺を見上げている。


(ここから――どうする?)


 罠?

 寸前で思い浮かんだが、身体は動いている。

 止まれない。


 そのまま速やかに――ぽん、とルーナの肩に手を置けば――ルーナはびくっと身を竦めた。


「……」

「……」


 勝負あった。


「なにしてんだ?」

「……っ」


 問われ、ルーナは肩の上にある俺の手に視線を向けて我に返る。


「っ申しわけございません……ご主人様の方から迫って来て頂いて……つい、避けるのを忘れてしまいました」


 勝負だからそりゃ距離を詰めるだろう。つい、と言われても。

 本当になんの申し訳にもなっていない。

 肩にふんわりと触れている俺の手を見ながら、もどがしそうに身を捩っている。

 なにがしたかったんだ。

 触れられ、羞恥に耐えるようにしているルーナに気まずさを覚えて手を離す。


「じゃあ、俺の勝ちと言うことで。留守番よろしく」

「あ」


 言いながら手を離せば、可愛らしい声と共にわりとはっきり、しまった、と表情にまで出ていた。

 表情はすぐに消えたが、瞳には自責と後悔が浮かび、唇の端を口惜しそう噛み締めている。


「……ご主人様っ、もう一度……お願い出来ないでしょうかっ……」

「……三度目は無いからな」


 ルーナの情けない声に、浮かびそうになった苦笑を誤魔化すため、溜め息を吐きながら頷く。

 これで終わらせてもいいのだが、勝負を始めた趣旨が違う。あくまでルーナの力を計りつつ、俺の実力を示すための勝負だ。


「はい、ご慈悲に感謝します」


 返答の声こそ淡々としているが、瞳には強い意気込みを浮かべて頷いていた。

 そして、静かに反身を引いて……軽く踵を上げて、爪先立ちになる。


(なんの構えだ?)


 わからないが、訝しげに見ていても始まらない。


「……それじゃあ、行くぞ」


 無言で頷くルーナの瞳から感情が消えた。

 なにかに憑かれたような視線で、どこを見るでも無く、全体を見ている。

 極限までに集中している様子だ。


 臆せず駆け出そうと動いた瞬間、ルーナは俺が長剣を持つ手の方へと、ふらりと身体を運ぶ。

 当然、刃圏から逃げられる前に鋭く剣を伸ばす。と――


「っ!」


 ――ルーナは俺を真っ直ぐに見上げたまま、片手で長剣を掴んだ。

 鞘のままだが、そんな簡単に掴めるような速さじゃなかったはずだ。

 掌に纏鎧魔法が展開されている。


 この手の勝負では、秒が数えられる程動きが止まった時点で一合の終わりとされる。

 剣を掴まれた驚きと、瞳の美しさに一瞬動きが止まりかけたが、即座に剣を手放し、動きを止めないために踏み込む。


 脇腹辺りに手を伸ばすが、予想されていたのか、誘い込まれたのか、片手の指先だけで手首に触れられ、突き放される。

 手甲に包まれた指先の固い感触。

 ルーナの軽い身体はそのまま腕から逃れ、速やかな足捌きで俺の背後へと移動しようと――させない。

 俺はルーナの動きに反応して――


「まっ、うわっ!」


 ――追うため、勢いのまま振り返えろうとして足に何かが引っ掛かった。

 もつれて足を止めてしまう。

驚 き見れば、剣だ。俺が手放した長剣を、足元に引っ掛けるように仕掛けていた。


「……」

「……」


 一合の終わり。見事だ。

 闘技場での戦いはルーナは本調子ではなく、実力の三割も出せていなかったような感触。

 幼いなりに、歴戦の剣奴と言うのは伊達ではないらしい。


「やるじゃないか」


 戦慄しつつ顔を上げ、素直に賞賛の声をかけるがルーナは集中の姿勢を崩さない。

 美しい瞳は微動だにせず開かれていて、完全に戦闘用に切り替わっている。


「……二合目だ」


 長剣を拾い上げ、両手持ちで構える。

 切っ先を身体の中心に、攻防一体の構え。


「いざっ!」


 お手本通り、正面から飛び込んでの縦切り――ルーナは小柄な体躯を僅かにずらして避ける。

 追撃の幅が無いが、手首だけで剣を翻して横凪ぎ――ルーナは刃を指先で受け、その反発を利用して刃圏の外へと飛んで行く。

 静かな着地に、一瞬だけ見惚れてしまう。


 大きく距離が開いた。

 大股で距離を詰め、ぎりぎり秒が経過するかどうかをうやむやにして追撃を加えて行くが、どれも最小限の動きで回避される。


 紙一重で捕まらない。

 まるで静かな舞を踊っているようにも見える、独特な体捌きだ。


(なんの意味があるんだ?)


 捕まらない為の動きを徹底しているのは分かるが、必要最小限の動きで対戦者を煽るように躱して行く動きは舞踊のようで、一見高等技術のようだが反撃に出るつもりがなければ意味がない。

 紙一重で避けて、闘技を盛り上げる意味でもあるのだろうか?


(……纏鎧魔法に絶対の自信があるから出来る技なんだろうけど)


 このまま長剣を使っていても結果は変わりそうにない。

 異様なまでに手で武器を捌くことに慣れている。

 反撃してくれるならまだ取りつく島もありそうな物だが、逃げに徹する相手を捉えるのは至難の業だ。


 一体どれ程の訓練を積めばこんなことになるのか、剣に覚えがあり、想像くらいなら出来る分、余計に訳が分からない。

 この少女に一体何がここまでさせるのか、それが理解不能で恐ろしくなる。


(本当に……いったい、どんな訓練を積んで来たんだろう……)


 剣奴や剣闘士の訓練と言えば、十人中、二、三人生き残ればいいような育て方だと聞く。

 それを耐え抜いた所で、闘技場で命懸けの日々は続くし、日々の訓練も終わらない。


(そんな日常を抜け出せたと言うのに、この子はまだ戦いを望むのか)


 暗鬱な気分のまま、このままでは埒が明かないと判断した。

 俺は足を止め、二合目を終わらせた。

 ルーナはぼんやりとしたまま、全てを見通すような瞳で口を開く。


「ご主人様、わたしの纏鎧魔法は薄く障壁を張ることで、衝撃や反動を利用することも出来ます。密度を高めれば完全に防ぐことも可能ですが、消費魔力が大きいのでそれは滅多に使いません。なるべく薄くして使います。ですので、切っ先を使った強い攻撃などで先ずは魔力切れを狙うのが得策だと思います」

「なるほど」


 攻略法まで教えて貰えた。

 魔力切れを狙うのは魔導士を相手にするときの初歩の初歩、基本だな。

 馬鹿にされている気分で腹立たしくなる気持ちを落ち着けるため、一呼吸挟む。


 そして長剣を置き、胸甲も外し身軽になった。

 離れた場所に居るルーナは爪先立ちのまま真っ直ぐに俺を見上げ、静かに深い呼吸を繰り返して息を整える。


 ついでに法服の上着も脱いでシャツだけになる。

 風が気持ち良い。

 涼しさに途切れかかっていた集中力も取り戻す。


「……」

「さぁ、三合目だ」


 ルーナは踵を軽く上げて臨戦体制を取る。

 俺は両腕を広げて構え、徒手空拳で臨むことにした。

 




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