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11話。ナフの村、山林。ゴブリン討伐(後編)



「……なにしに来た?」

「考えたんです。ここでも荷物を守ることは出来ますよね」


 ちんまい背丈に自分の頭陀袋と俺の荷物を背負い、得意気に瞳を輝かせている。


「……」

「……」


 頭の螺子が外れて吹っ飛んでいる憐れな奴隷の少女へ、なんと言えばいいのか、もう言葉が見当たらない。

 目が合ったまま言葉を無くしていると、ルーナは自然な動きで歩み出た。


「ま――」


 次の瞬間、不吉な音が響く。

 振り向き視線を上げれば、視界の端に小型の弩を撃つゴブリンが見えた。

 真っ直ぐ飛ぶ矢の影だけが見え――心臓か、腹か、突き刺さる軌道だと直感で理解する。


「ル――なッ!」


 声が裏返る。

 ルーナは自然な歩みのまま、軌道の間に割り込んだ。

 音を立ててルーナの頭に矢じりが突き刺さる――ことはなく。

 明後日の方向に回転しながら弾け飛んだ。


「……」


 纏鎧魔法で防いだのだろうが、心臓に悪い。

 もしルーナが間に入らなければ、今頃射抜かれていた。

 背筋に泡立つ物を感じる。


(……いや、いや)


 ルーナが現れなければこんな油断も失敗もやらかしていないわけだが。


「チいッ!」


 ゴブリンは悔しそうに舌打ちして、不器用そうに次の矢を装填している。


「……ごしゅじんさま、あいつ、消して――殺していいですか?」

「いや、あの……」


 助かった、とでも言えばいいのだろうか。

 それともこの場に来たことを叱るべきなのだろうか。

 ルーナは仁王立ちのまま俺を撃ったゴブリンを睨み続け、ゴブリンがびくっと身を竦めて矢を取り落す。


「……とりあえず、下がってくれないか?」


 言うが、ルーナの瞳は揺るがない。

 その場で荷物を降ろして剣を抜き、ゴブリン達を燃えるように凍えた瞳で見据えた。


「ご主人様は、わたしが守ります」


 宣言するルーナを見てゴブリン達は一瞬だけ下品な笑いを浮かべるが、少女の冷たい瞳に不穏な物を覚えたのだろう、次第に表情を引き締め、警戒心を高めて行く。


(……とにかく、この状況を収めてからか)


 俺は嘆息を飲み込んで長剣を構えた。


「……手を出すなら、ゴブリン達の行動力を奪うだけでいい。出来るか? トドメは俺が刺すから」

「……?」


 指示に対し、ルーナは首を傾げて俺を見上げる。


「こだわりだと言えばそうなんだろうけど……俺の為に誰かが手を汚すなんて見たくない。魔物討伐は俺の仕事だ」


 もしかしたら俺は自分が思っている以上に信心深いのかも知れない。


「むずかしいです」

「それが無理なら黙って自衛だけしててくれ」

「いえ、動きを封じるのは得意です。いつもそうでした。ですが、ご主人様の言うことはよくわかりません。ご主人様に仇成す者はわたしの敵です。何故殺してはいけないのでしょう?」

「……後で全部まとめて説明してやるから、とりあえず今は指示に従ってくれ」


 全てはこの戦いが終わってからだ。

 この戦いが終わったら、ルーナと話をしよう。


「ご命令とあれば」


 ルーナの瞳の奥が確実に輝いた。

 こんな時でも命令して欲しいと瞳を輝かせている奴隷の少女。

 頭を抱えたくなるが、そんな場合じゃない。


「ああ、命令だからそうしてくれ」

「はい。ご主人様の仰せのままに」

「なっ!」


 ルーナは剣を手に駆け出し――跳んだ。

 ルーナが駆け出したと同時に逃げ出した、大きなゴブリン。

 木々を蹴る三歩の跳躍で追い越し、その行く手を塞ぐように小さな音を立てて着地した。


(なんだ、あの動き!)


 てっきり自衛と待機の指示を出したつもりだったので、スカートの裾と言う制約から解き放たれたルーナの動きに――それにしたって規格外の機動に、驚愕しながら後を追う。


 ルーナが道を塞いでいるのは、他のゴブリンよりも二回り程大きくてとさかの生えたゴブリン。

 ゴブリンの長だ。

 ゴブリンの長がいつも決まって真っ先に逃げ出す。

 知能も力も一番あるだろう、群れの長が真っ先に逃げ出す醜悪さは、なかなかに酷い。


 一切なにも守る気が無い姿は、いっそ清々しいくらい不快な気分になる。

 本当に大切な物がなにも無いのだろう。

 ルーナはゴブリンの長の行く道を塞ぎ、無感動なまま肩を剣で殴打した。

 蹲るゴブリンの長。


 周りのゴブリンも、長を助けるつもりは微塵も無い。

 他のゴブリン達は散開して逃げ出す。

 ルーナは躾けられた猟犬のように、的確にその後を追う。


(脚に……魔法?)


 ルーナの太腿から脚にかけて、表面に浮かんでいるのは魔力の輝きだ。

 異様な起動力に戸惑いつつも、逃げ惑うゴブリン達の醜悪さも目が行ってしまう。


(もう少し考えて、協力して逃げれば生き残れる個体も増えるだろうに……)


 それぞれが適当に思いついた方向に逃げているだけで、お互いに邪魔をして喧嘩を初めている個体すらいる。欲している物は、今その瞬間、自分の為だけの利。

 後のことや先のこと、周りのことは何も考えていない。そんな発想すらないようだ。


 今、自分さえ良ければいい。自分の為だけの利を求める。

 だから群れの他者も守らなければ、住処もこんなにも荒廃させられるし、あっさりと棄てられる。

 そんな生き方を自由だなんて、呼べる筈がない。


 ルーナは高速で跳び回り、ゴブリンの背や足を打ち払って行く。

 捨て鉢になって向かって来たゴブリンは、剣を身体を引っかけ、勢いを利用そのまま利用し、軽やかにその身体を空中で回し剣の腹で潰すように地面へと叩き落とす。

 その動きは、俺と手合せした動きの速さを倍以上に早めた上に、木々を利用しながら縦の動きも取り入れ、まさに縦横無尽だと言うのに、奴隷であることを辞めようとしない。

 奴隷として、不自由な生き方をしている。


 自由とは。自由とは……。自由とは――。


(……えーと、だから、なんだけ?)


 目の前のろくでもない現実から目を背けるためだろうか、取り留めもない考えが浮かんでは散り、形に成らず消えて行く。

 丁度ルーナが奇妙な影像をしたゴブリンの前で一瞬だけ足を止めてる所だった。


(これだから、女子供には見せたくない……)


 逃げられないと悟ったゴブリンの一匹が、自分よりも小柄な個体を押さえつけ、動物的な生存本能を剥き出しにした動きで腰をかくつかせている。

 上になっている方は血走った目で涎をまき散らしながら鼻孔を広げ口角を快楽に蕩けさせ、下になっている方は必至の形相で頭を振り醜い声で泣き喚いている。


 奇妙な行動に、ルーナは一瞬だけ首を傾げていたが、深く考える必要は無いと判断したのだろう、上になっているゴブリンの後頭部を剣で殴打。

 上のゴブリンが倒れ込み、もがく下になっているゴブリン。


「ルっ――」


 下になっているゴブリンの横面も、無感動に殴打して次の標的へと飛んで行く。


(なにを言おうとした……)


 ゴブリンに同情なんてしても無意味だ。

 どうせ下になっていたゴブリンは更に自分より弱いゴブリンを本能のまま、我欲のままに食い物にするだけ。

 そんな群れに自由なんて、そんな世に自由なんて無い。

 自由とは、我欲のままに生きることを正当化する為の言葉では、断じてない。


 自由とは――……

 ――また思考が逸れそうになっている。


(……集中しよう)


 ルーナの後を追い、動けなくなったゴブリンの首を撥ねる作業は普通に戦うよりも余計に気疲れするのだが……もういい。

 淡々やるべきことをやるだけだ。

 もがくゴブリンの背中に長剣を突き刺し、首を撥ねる作業を無心で繰り返す。

 ろくでもない地獄絵図の中、悲惨な断末魔の鳴き声を聞きながら、重苦しい気分だけが積み重なって行く。



================



「なるほど、バネのように使う、跳躍魔術か。そのまんまだな」

「は……いっ」


 体表に魔力の力場を集める結界式の纏鎧魔法で、足の要所を固定し、反発力として使うことで異様な機動力のある動きが可能になるとのことだ。跳躍魔術、と呼んでいるらしい。


 魔法を使った技術、魔導技術、略して魔術。

 踵を上げた舞のような体捌きにも、足の裏で使っていたらしい。

 纏鎧魔法にそんな使い方があるのかと感心しっぱなしだし、とんでもない魔法制御力だと畏れすら覚える。


「それで、長く使った後はこんな風になるのか」

「は……っぁ、いっ、ご、しゅじん、さまっ」

「傷つくなって、言ってなかったっけ?」

「も、うしわけっ、ございまっ――っ」


 その結果、魔法で固定していた部分が内出血を起こし、赤紫色の模様のようになっていて、見た目にも痛々しい。木の幹に背を預けさせて治療をしている最中。


「ご、しゅじん、さ、まっ、こんな痛みは、んっ、慣れっ、てっ、いますので……ひゃ!」

「……静かにしてくれないか?」


 ルーナの足に軟膏塗り包帯で巻いて行くのだが、痛みより優しく触れられる方が耐え難い少女は、可愛らしい声色で悩まし気な声を上げている。

 他人から触れられるのに慣れてないだけではなく、若い肌の鋭敏な感覚と言うのもあるのだろうが、痛みにはいくらでも耐えられるのに、優しく触れられるのは耐え難いと言う奇特な少女だ。


「申し訳ございません、いつもより力を使い過ぎました……次からは跡が残らないように、もう少し調整しますね」


 そうしてくれ。

 いや、次なんてないけどな。


「さてと……」


 ルーナの膝上まで包帯を巻き終え、立ち上がり伸びをして浅く一息。

 こんな状況で、そんな声を出されても、実際なにか感情が動くこともない。

 周囲を見渡せばゴブリンの躯が無数に散乱していて、億劫な作業がまだ残っている。

 辺りに散らかったゴブリンの死骸を拾い上げて一か所にまとめて焼くために、重い腰を上げて作業へと取り掛かる。


「ご主人様、なにをしているんですか?」

「獣が魔物の肉を食うと、魔獣に変化するって話、知らないか?」


 普通の生き物に取って、魔物の血肉は毒になるのだが、極稀に毒性に耐えて魔獣へと変化することがある。

 そして濃い魔力の宿った血は周囲までをも汚染する。

 一匹二匹なら影響も薄いのだが、大量に放置していると周囲の植生にまで影響が出てしまい、魔の森へと変質し魔獣の巣となってしまう。

 そうなる前に、火で清める。


 魔法の廃れた現代では知らない人も多い魔導学の知識だ。

 魔法を使えるなら知っていてもおかしくないはずだが、闘技場で育ったルーナは知らなかったようで首を振る。


 ちなみに、禁呪持ちに火葬が義務つけられているのはそう言った理由からだ。

 魔法も廃れ、魔導学上、蘇生魔法の存在も否定されている現代では、土葬で遺体の保存を選ぶ者も減っているそうだが、やはり街に暮らす普通の人々は過去からの風習や信仰に習い土葬を選ぶ傾向にある。

 ともかく。


「魔獣が発生すると魔物より厄介だからな、魔物を大量に狩った後はまとめて火葬するのが決まりなんだ」

「そうなんですか、手伝いま――つっ」

「安静にしててくれ」

「っ、いえ。大丈夫です。手伝います」


 立ち上がるのに一瞬だけ痛みに眉をひそめたが、その後は無表情でゴブリンの死骸をまとめるのを健気に手伝ってくれる。

 痛いだろうに。


「……ああ、じゃあ向こうから頼むな」

 

 そう言うことをされる方が、俺の心労になるのをどうしてもわかってくれないようだ。

 溜め息を飲み込む。


 黒革の手袋越しとは言え、死体を触るのは不気味で不快だ。

 ルーナは黙々と作業のようにことを進めている。

 二人で淡々と死骸を集めた。


 積み重なったゴブリンの死骸に枯れ木を混ぜ、蒸留酒を撒いてから火をつける。

 既に鼻は馬鹿になっていると思っていたが、やはり生の肉が焼ける臭いは独特で悪臭でしかない。


(べつに全滅までさせる必要もなかったんだけどなぁ……)


 ある程度数を減らせば散り散りになって、勝手に野垂れ死んでくれる。

 ゴブリンなんてそんな脆弱な生物だ。

 人間が団結した社会を築くようになって以来、数もどんどん減っているらしい。

 人の世にとってはいいことなのだろう。


(……ま、禁呪を使わなくて済んだのは、良かったかのかな)


 気分が晴れることはないが。

 生臭さと焦げ臭さと粘つくような湿気が合わさった臭いの中、何の達成感もないし、難敵を倒して晴れやかな気分になれる絵面でもない。


「ルーナ」


 静かに名前を呼んで、手甲を外すように示す。

 手に持ったままの酒瓶を軽く振れば、強烈な酒精の臭いが鼻の奥に突き刺さる。


「それは、お酒ですか?」

「消毒用だ。純度が高過ぎて飲めた物じゃない。飲んだらぶっ倒れるぞ」


 蒸留酒で革手袋を洗っているのを見て、意図を察してくれた。

 ルーナの手甲を預かって、同じように血の汚れを洗い流す。


「……」

「……」


 一通りの作業が終わった。

 お互い話すことも無く。流れて行く煙を見送る。

 命令違反を今ここで注意する気にもならない。後でお説教する必要はあるだろうが。


(……話か)


 ゴブリン討伐が終わったら話があると言っていたことを、忘れていた訳ではないが改めて思い出した。

 億劫な重圧は腹の底にどんどん積み重なって行く。

 吐き気と共に溜め息をつきたくなる心地をなんとか厳粛な気分で抑え、燃える魔物の躯の前に膝をつき、聖印を切って祈る。


「……」

「……」


 しばらくそうしている。

 風が吹き、木々がさわめいて、音も無く。

 ふと顔を上げれば、ルーナは俺を見ていた。


 その瞳に浮かぶ表情は読み取れないが相変わらず美しくて、こんな惨殺現場にはまったく不釣り合いでしかない。

 ぼんやりと、ルーナの綺麗な瞳を見ている。

 ルーナは無表情のままこちらを見ている。

 さて、そろそろ村に戻ろうか。


「――……え?」

「……」


 そう声をかけて立ち上がろうと、腰を浮かしかけた瞬間。

 自然な動きで頭を抱きかかえられた。

 小さな手の感触が頭を包んでいて、抵抗する間もなく少女の胸の中に頭が収まる。


「……」

「……」


 薄い革装束の向こうで息づいている心臓。

 痩せていて、皮膚の感触と、細くて精密な骨がそこにあることがよくわかる。

 そんな身体に、慎ましくて僅かだが、確かに存在する、兆しを密やかに湛えている柔らかな部分が頬に当たっていて、言葉どころか息すら出来ない。

 ルーナの身体が微かに震えているのがよくわかる。


(……)


 思考は止まり、心臓の音しか聴こえない。

 ルーナは動かない。静かなまま、心音だけが聴こえる。

 腕に少し力が籠り、心臓の音が更にはっきりと聴こえるようになった。

 温もりの中、しっとり香る瑞々しい匂いが少女の体臭だと気づいて一気に顔が熱くなる。


「あ、あの、ルーナ?」

「……」

「ルーナさん?」

「……っ」


 呼びかければ、少しだけ腕の力は緩まった。

 顔をずらして視線を上げれば、目と目が合う。

 ルーナの瞳は耐えるような無表情を装い俺を見下ろしている。


「……」

「……」


 そのまま見詰め合う。

 優しく触れ合っていることで、ルーナの瞳は強張っている。

 無理をしている。


「あの、離してくれないか?」

「……申し訳ございません」


 やっと頭を解放してくれた。息をつく。

 俺は自由になった頭を上げ、頬などを撫でて平静を取り戻そうとするが、完全に思考が空回転している。

 とりあえず問う。


「いや……ええと……え? どうしたの?」

「……とても辛気臭いお顔でしたので」


 ルーナは珍しくやや視線を逸らしてから言葉を続けた。


「村で母親に抱きかかえられる子供を見ていたご主人様が、とても穏やかそうな表情をされていたのを思い出しまして……申し訳ございません。出過ぎた真似でした」


 表情こそ変わらないが、滑って決まりが悪そうだった。


「……なんだそれは」


 気を使ってくれたらしい。

 何事かと思った分、思わず疲れた笑いが漏れる。

 くたびれた笑顔を向ければ、顔を上げてくれた。


「怒っていませんか? お仕置きはいつでも受けます」


 それは瞳を輝かせながら言うことではないだろう。

 お決まりのやり取りに苦笑も続けて浮かぶ。


「怒ってないよ」


 知識は歪で常軌も逸していて、言葉選びも酷くて色々と滑っているが、一生懸命役に立とうとしてくれているのは確かなのだ。

 人に触れるのは苦手だろうに。


(まったく、どう反応すれば良い物やら)


 とても疲れることだけは確かだったので、疲れた苦笑を浮かべたまま肩を竦める。


「さ、村に戻ろうか」

「はい」


 そして話をしよう。


「ほら」

「?」


 差し出した手を見てルーナは首を傾げた。


「抱えられるより、背負う方がいいか?」

「……それはお仕置きですか?」

「なんでだよ。その足で歩くつもりか?」

「歩けます。ご主人様が奴隷を背負うなんて、あっていいはずがありません」


 優しくされるのが苦手で、奴隷として主の世話になることに恐縮しているのだろうが、ここまで親切心を断わり続けられると拒絶されているような気さえしてくるな。


(……ルーナもこんな気分なのかね)


 方向性や言ってることのろくでもなさの所為で気づき難いが、ルーナは全身全霊、全力で主の役に立とうとしているのだ。

 拒絶されていると思っているから、余計に一生懸命になっているのかも知れない。

 お互い想い遣ってるのに、お互いを苦しめ合っている結果になっているのだから、どう考えても、どちらかが間違えている訳で。

 そしてどれだけ考えても、おかしなことを言っているのはルーナな訳で。


(素直に背負われてくれよ……)


 根は本当に良い子だったのだろう。

 おかしな教育で歪んでしまった。

 歪んでいて、歪みきっている。


「……まぁ、無理にとは言わないけど」


 お前は俺の私物、つまり荷物なんだから黙って背負われていろ。なんて言い含めることも出来るのだろうが、優しくされるよりも、痛みに耐える方が楽そうにしている奴隷少女なんて、一体どうすればいい?

 代りに、有無を挟む間も与えずルーナの荷物も肩に背負う。

 なにか言いたそうなルーナをもう一度見て優しく問いかける。


「本当に大丈夫か?」


 無理強いはしないが、どうしても気にはなる。


「はい、大丈夫です」


 なに一つ大丈夫ではないが、やはり痛みを耐えるのは慣れているようだ。

 歩き出せば平然とした表情で俺の後をついて来る。まったく痛がる素振りは見せない。

 だが、それも注意して見ていれば時折、足をひきつらせ膝を庇うのを隠しながらだった。

 

 今までもずっとそうして来たのだろう。

 もしかしたら、これまでの旅路でも、そんな場面が多々あったのかも知れない。

 なに一つ気づいてやれていなかった。


(とにかく、ちゃんと話をしないと……)


 重い徒労を腹に抱え、どんどん重くなる足取りで村へと戻って行くのだった。




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