01話。野営地にて。どうしてこうなった。
愛と自由をテーマに、奴隷少女とあれこれするお話です。
「ですが、あなたがわたしのご主人様なのですよね?」
街道から少し外れた森の中、野営の準備を整えてしばらく。
目を覚さました奴隷の少女と今後のことを話し合っているのだが、どうにも認識に齟齬があるようで話がおかしなことになっている。
「だから、キミはもう自由だって言ってるだろ。命令なんてしない!」
向かいで膝を抱えて座る少女へ、強い口調で言えば少女は真っ直ぐに見返して来る。
焚火が作る陰影のせいか、脂で汚れろくに整えられてもいない長い黒髪の向こうから、予想以上に強い眼差しで見上げられ思わず気圧される。
奴隷特有の、怯え、濁り、諦め、この世全てを呪う瞳――ではない。
薄汚れてはいるが、あどけない顔立ちは無表情のままで、真っ直ぐ美しい青色の瞳で俺を見ている。
「これからは自由にしていいんだ」
「……」
優しく言うと、透き通る泉の青をそのまま写し取ったような色をした瞳は、ほんの少しだけ歪んだ。
殆ど表情は変わっていないのだが、猛禽類を思わせる形の良い眼と、美しい瞳をした目が陰れば、それだけで鋭く睨まれているような心地になってしまう。
「自由……ですか?」
まさか言葉の意味が分からないのだろうか?
無表情で、綺麗な瞳にだけ疑問符を浮かべて首を傾げている。
「自由とは……一体なにをすればいいんでしょう?」
そのまさかのようだ。
奴隷として育てられた少女が真っ直ぐに俺を見ている。
「……そんなことは俺が決めることじゃない。自らの意思に由って生きる、それが自由ってことだ」
少女の瞳は揺るがない。
「人は混沌の時代を経て学んだ、誰かの欲望に虐げられるのではない、自らの意思で、未来のために生きるべきであると」
聖典の一節を端的に説明するが、少女の表情は晴れない。
きちんと顔を合わせてから、まだ数時間程なので警戒心が解かれていないのか。
もしくは。
「すみません……わたしは頭が悪いので、むずかしい話はわかりません……」
当人にとっては非常に難しい問題に頭を捻っている表情なのか。
奴隷として育てられ、奴隷としての知識以外、本当にわからないらしい。
少女は射抜くような眼差しのまま、顔を上げて堂々と宣言する。
「わたしは、ちゃんと奴隷がしたいです」
堂々と、わけのわからないことを宣言される。
「弱ったな……」
俺は頭をかきながら、改めて少女を見る。
歳の頃は、十は越えているだろうが十六には届いてはいないだろうと言った見た目の少女だ。
腰までありそうな長い黒髪はぼさぼさで、青い瞳だけが異様に美しい。背は低く痩せ気味で手足も細く短く成長過程のそれ。
薄汚れた黄土色の布の真ん中に穴を空け、頭を通して身体の前後に垂らし、両脇を紐で結んでいるだけの……服と呼んでいいのかどうかわからない物を着ている。
腰帯代わりに剣帯を巻いているのは元は剣奴だったから。自分の頭陀袋から、剣がはみ出ている。
足はふくらはぎまで巻かれた干し草を編んだ草履。
なにか正式名称があったはずだが、奴隷服なんて特徴的な俗称で呼ばれることが多いので忘れてしまった。
これで剣ではなく、石斧を持てば野人か獣人かと言った格好だな。
(あとは……奴隷の首輪か)
少女の首に嵌っている武骨な黒革の首輪を見ていると、益々陰鬱な気分になり、視線を下へと逸らせば……さらに重苦しい心地となって、そのまま地面を見つめることとなった。
下着を履いていない。
家畜に下着なんて必要ないと言う、悪趣味極まりない奴隷の習慣だ。
焚火の影がゆらめき、ぎりぎり最奥までは見えていないのだが、抱えた膝の付け根まで素肌が見える。
しばらく地面を睨み、呼吸を置いてから顔を上げる。
「何度も言ってるだろ、俺はこの身に禁呪を宿している巡礼騎士だ。己の魔力が衰えるまで巡礼の旅を続けなければならない禁呪持ちで、他人の面倒を見てる余裕なんて本当は無いんだ」
巡礼騎士の証である、首にかけた聖印、聖教会の紋章が入った長剣、旅の法服に黒革の胸甲を纏った自分の身形を示しながら言う。
俺こと、巡礼騎士アルゼス・セルシウス。
巡礼士として十歳の頃から旅に暮らし、そろそろ十年近くになる。
旅の途中で騎士なんて立派な肩書きを貰えたが、その本質は強力な魔法を持ちながら制御不完全な人間をたらい回しにしているだけの、厄介払いの為にある制度だ。
旅暮らしなんて過酷な生き方に、無関係な相手をつき合わせられるはずがない。
「そう言われましても。わたしはすでにあなたの物です。身も心もあなたに……いいえ、ご主人様に隷属しています。従属しています。服従して隷従しています。ご主人様の邪魔にはるようなことは絶対にしません。命令ならどんなことでも従います。どうぞ手足のごとく、また道具として、なんなりと命令してください」
少女は奴隷の首輪に手を添えながら、澄まし顔で謳うように宣言する。
表情の変化に乏しいのは、道具である奴隷に感情や意思など不要と言う悪習の下で厳しく躾けられたからなのだろうが、瞳が美し過ぎる所為であまり意味を成しておらず、わりとはっきりと感情が伺えてしまっている。
なんで得意気な瞳のかはさっぱりわからないが。
「だから、そんな奴隷から解放してあげるって言ってるんだよ。奴隷の首輪も外すから、自由に生きていいんだ」
「わたしはこれしか生き方を知りません。ですから、首輪は外れないんです」
少女は奴隷の首輪に大切そうに撫でている。
すぐに外せば良いだろうと、奴隷商から引き取るのにとりあえずつけさせたのだが、大間違いだったらしい。
首輪を留めている金具が特殊な魔導金属で、二人の意思を同調させなければ外れないようになっている。
「まぁ、革の部分切るか金具自体を壊せばいいんだろうけど……」
「それがご主人様の命令でしたら、奴隷のわたしに拒否権はありませんが……」
器用に瞳だけで悲しみ表現している。外したくないらしい。何故?
首輪を外す外さないで始まった話は、おかしな堂々巡りとなってしまった。
俺は大きく溜息を吐く。
「わかった。わかった、わーかった。まあどうせ孤児院までは面倒見るつもりだ。それまでの間、せめて奴隷奴隷連呼するのだけはやめてくれ」
次の主要都市、東南都アペリスまで歩きだと順調に行って半月程。その間、ずっと奴隷奴隷言い続けられるのかと思うと暗鬱とした気分になってしまう。
「……」
少女は瞳に不服そうな色を浮かべて思案を続けていたが、思いついたように顔を上げた。
表情に大きな動きはないのに、瞳の美しさのせいでとても素晴らしい提案を思いつき、輝いているように見えた。
「では愛玩奴と――」
「――やーめーろ」
食い気味に言葉をかぶせる。本気で頭悪いのか?
「本当にやめてくれ、不名誉な」
奴隷に手を出すなんて背徳行為として戒律で厳しく禁止されているし、国法でも取り締まりの対象とされている。その上、奴隷に手出しするなんて、世の中ではある種の異常性癖として扱われてもいるわけで、体裁が悪いなんてもんじゃない。
国法で奴隷は家畜と同等、もしくは道具であると定められているのだ。良く言うならば家財として扱う事となっている。
人に知られれば家畜に手出しする変質者と同じ視線を向けられることだろうし、聖教会的に言わせれば異端者だ。
貴族や有力者達にとって、跡継ぎ問題や奴隷に情を移すような面倒事を起こさせないための戒めでもあるのだろうが、命令でそんな行為を強要するなんて俺個人の矜持としても許せないし、聖教会に所属することになっている巡礼騎士にとって、冗談で済まされることではない。
「黙っているだけで、みんなやることはやっている。と教わりましたが?」
……当然、やっている連中がいるからわざわざ禁止されているのだろうが。
「そう言う問題じゃない。みんなやってるからやって良いなんて道理はない」
自由に生きるためには、女だろうと子供だろうと自分の意思で物事の良し悪しを判断する必要がある。
自分の考えを持たず、なぁなぁで許されるなんて守られている幼子か、己の意思を放棄して搾取されている者か、絶望の果てに全てを諦めている奴隷だけだ。
そしてもちろん、清貧、勤労、貞淑、禁欲の教えと共に、秩序と人の道を説き、民衆を守る立場の聖教会は人身売買全般に否定的な立場だし、我欲の為に他者を物のように虐げる奴隷制度なんて物は許していない。
中央議会の場で常々奴隷の身分なんて無くすべきだと訴えているし、奴隷相手でも最低限の保護は必要だと説いている。
「申しわけございません。奴隷風情がご主人様に進言など、出過ぎたことでした」
「なっな、なにっを!」
「どうぞ、お仕置きをください」
音もなく立ち上がり、可憐で白くて丸い、小さくて形の良い尻を恥ずかし気もなくこちらへと向け、平然と言う。
「わたしの身体に傷をつけていいのは主になる方だけだと言うことで、調教では電撃魔法を主体として鞭は肩や手に頂いていましたので……少し緊張します」
「あー……もー」
俺は片手で頭を抱えるようにして視界を覆い唸る。
聖教会の言う、奴隷なんて身分はなくすべきだという意見に賛成するしかない。
顔が熱いし頭も痛い。
孤児院に押しつけるにしても、次の町に着いたら真っ先にパンツを履かせないといけない。
「お仕置きなんてしないから。いいから、ほら、尻をしまってくれ。もう寝る準備するぞ」
「夜伽ですか?」
真剣な声色に、思わず顔が上がる。
少女は言われた通りに尻をしまい、居住まいを正して真剣な表情で俺の正面に正座して向き直る。
少女の持つ獲物を狩る猛禽類のような眼のせいか、ただ事ではない雰囲気になっていて……実際ただ事じゃない。
冗談では済まないし、強い眼差しは冗談を言っているようにも見えない。
「いや、だから……キミ、自分の歳ってわかる?」
少女の真顔に、頭の中は冷えてどんどん冷静になる。
奴隷は正確な年齢なんてわからないことが多いが、とても婚姻が許される十六歳を越えているようには見えない。
美しい瞳は大人びているようにも見えるが、控えめな鼻筋や頬の輪郭には子供の柔らかさも残っている。 学舎で言うなら初等部から中等部の境か、そんな辺りではないだろうか。女の子の成長は個人差が大きいのではっきりとはわからないが。
「歳を聞かれたら、十八歳以上だと言えと教わりました」
その身形で成人してるならどれだけ栄養不足で育ったんだと、哀れみを覚えてしまう程ぺたんこな胸にしらけた視線が行く。
腕や肩は少年の硬さを残しているし、細い太腿は伸びきっていない。
手足の小さには、幼子のような愛らしさがある。
そもそも先程見た小さくて丸い尻を思い出せば、さばを読み過ぎだろうと言わざる得ない。
「まったく、どういう教育を受けて来たんだか……」
「物心つく頃から奴隷として育てられましたので、これしか生き方を知りません」
「それはもう聞いた」
本来ならその言葉に深い憐れみを覚えるべきなのだろうが、当人の態度に同情を誘う気が微塵も無いので、憐れむよりもなぜか腹立たしさを覚えてしまう。
(ほんとに、どんな教育されて来たんだ……)
こんな幼さが残る少女からの夜伽の誘いをなんと言って断わればいいのか、なんでそんなことで頭を悩ませているのか、頭痛を堪えながら苦悩している俺を真っ直ぐ見上げて少女は言う。
「安心してください、わたしを飼育していた奴隷商は、処女は高く売れる。が口癖でした。今まで誰も触れさせたことはありません」
「……いやぁ、もうどうすればいいんだ」
あの冴えない奴隷商、随分な趣味をしていたらしい。
疲労感と呆れを大量に含んた視線を少女に向ける。少女はどこか得意げに、じっと俺を見返して来る。
研ぎ澄まされた剣の切っ先を見つめてしまうような心地で、瞳から目が離せない。
瞳の力強さに揺るぎない芯を感じる。
その目だけ見れば、まったく奴隷らしくないのだが、喋っている言葉は酷いとしか言いようがない。
淡々とした態度の中に、どこか堂々とした鷹揚を感じさせる頷きを挟み、少女は口を開く。
「はじめての性行為は力関係を誇示するため、責め苦のように行われるとわたしの知識にあります。倒れるまで殴りつけ、反抗心を徹底的にへし折ってから行為に及ぶのですよね?」
「しねぇよ!」
「大丈夫です。覚悟は出来ています。具体的な知識は仕込む楽しみを残しておくと言うことで詳しく教わっていませんが、わたしは殴り終わるまで黙って足を開いて待っていればいいんですよね? わたしも女です、なんとなくわかります。きっとこの――」
「――開かんでいい! やめろ!」
開こうとしている足を戦々恐々とした心地で止める。
「? どんな特殊な内容でもご主人様の命令には逆らいませんよ。どれだけ苦しくても耐えて、ご主人様のご希望通り、命令通りにご奉仕して見せます。それがわたしの、奴隷としての矜持です。どうかご主人様のお好みのやり方で心行くまでわたしを躾けてください」
「いや、しないって言ってるよねえ⁉」
なんで若干誇らしげまであるんだ。
なんだ奴隷の矜持って。
口を開くたびに酷くなっていく話題に、俺は悲鳴に近い声を上げるしかない。
声がまた、素焼きの鈴の音のような愛らしさがあるのが、一層どうしようもない気分にさせてくれる。
「初物だと教えれば、男性は生唾を垂らして飛びついて来ると聞いていたのですが……」
「俺はみだりにそんなことしない!」
可愛らしい声と顔で、きょとんと首を傾げられる。その瞳は、俺の言っている意味がわからないと雄弁に語っていた。なんでだよ。
「それは愛し合う夫婦が互いの愛を確かめ合って子を成すためにするための尊い行いであってキミの知識は前提から色々間違ってるから早く忘れたほうがいいんじゃないかなあ!」
「むずかしいです。わたしは頭が悪いので、そんな器用なことは無理です」
自棄気味に捲し立てた言葉は、険しい眼差しと共に拒否された。
「鞭で打ちながら教えてくれるなら、なんとか覚えられるかも知れませんが……」
「あぁ……もういいから、普通に寝るから。いいね。明日も早起きして歩くんだから、さっさと眠らせてくれ。そっちも疲れてるだろ、素直に身体を休めてくれ」
「はい」
少女は自分の持ち物である、肩掛けの頭陀袋から毛布を――ではなく、一抱えするような大きな兎のぬいぐるみを取り出した。
「……なんだそれ?」
「兎のリフィトです」
「毛布は?」
少女の胴体にすっぽりと収まるぬいぐるみ。
頭陀袋からはみ出していた垂れ耳はてっきり鞄の飾りだと思っていたのだが。大きさ的にそれしか入っていないようだ。
「奴隷に私物なんてありません」
「……そのぬいぐるみは?」
どう見ても私物だが。
「リフィトは相棒です。この子さえいてくれれば、どんな辛い夜でも我慢できるんです。痛々しく処女を散らされる聞いていましたので、せめてもの慰みにと持たせてくれたようですね」
「……いや、いいけどね、うん。あと処女とか慰みとか、軽々しく言葉にするな」
どうとは言わないが。じっと見ていると、無表情のまま俺を見上げて来る。
相変わらず綺麗な瞳に迫力があるが、垂れた耳をした兎のぬいぐるみ越しなのがなんとなく年相応の愛らしさを感じさせる。
俺は首を傾げる。
「それで、どうする?」
「なにがです?」
少女は力強い瞳で俺を見ながら首を傾げる。
「いや……毛布とか外套とか、羽織る物ないの?」
「ありません」
「この毛布使うか? 俺の外套を貸してもいいけど」
「滅相もございません。奴隷のわたしには過分なお心遣いです」
「いや、そう言われても……寒いだろ?」
季節は春先だが、夜はまだまだ肌身に寒さを感じさせる。
「大丈夫です。慣れています」
「……えーと」
なにをどう言えばいいのやら。
「ああ、じゃあ石焼いて懐炉作ろうか」
「いえ、大丈夫です」
既に眠気が漂っていて、億劫だなと思いつつも提案したせいか少女は首を振る。
「そう? 本当にいいの?」
「はい」
「……もう寝るよ?」
「はい」
少女は奴隷として俺が眠るまでは寝るつもりもないようだ。
焚火の傍でぬいぐるみを抱えたまま、横になる俺を見ている。
「火の扱いは?」
「出来ます」
ぬいぐるみを抱きかかえていればそこそこ暖かいだろう。
もう今日は疲れた。さっさと寝たい。明日も早く起きて、とりあえずはウルトの町を目指すんだ。
「あー……じゃあ……寝るときは火の始末してね。明日も歩くから、キミも早く寝るんだよ。なるべく暖かくしてね」
「……はい」
どこか釈然としない様子で頷く少女。
気遣いの言葉に、不満そうな感情を瞳に浮かべて兎のぬいぐるみに顔を埋めているのはなぜだろう。
気にはなるが、どうせ今話してもまともな話になりそうにない。
顔を背けて寝る体勢を作る。明日、なにもかも明日にしよう。
「おやすみ」
「はい。おやすみなさいませ、ご主人様」
淡々とした返事を耳にしながら目を閉じた。
今日はいろいろ有り過ぎた。
闘技場なんて初めて出場したし、こんなに人と話をしたのも随分久しぶりだ。目を閉じれば疲労が一気に襲って来た。
「ご主人様、差し出がましい申し出かも知れませんが、一つ思い出したことがあります」
「……」
どうせろくでもないことだろ。睡魔に抗えない。
「禁呪の封印について、知識があります」
「……」
ほら見ろ、またろくでもないことを言い出した。
いったいなにをふういんするって?
「寝てしまいましたか?」
「……」
ああ、もう寝た。
「では、わたしも休ませて頂きます。おやすみなさいませ」
あいよ、おやすみ。
まったく。奴隷と言うのはもう少しこう、陰鬱な悲惨さや薄暗い悲壮感がある物なのではないのか。
街で見かけるような、鞭で打たれる荷徒用の奴隷や、手足を鎖に縛らこれから売られて行く子供の奴隷なんて、後ろめたさと共に目を背ける物だろうに、なんでこんなぐいぐい来るんだこの子。
勤勉な奴隷とでも言うのか、わけがわからない。なにもかもがおかしい。
まったく、禁呪を……封印なんて……禁呪を封印?
「は?」
俺は跳ね起きる。
まどろんでいた時間はそれなりに長かったようで、すでに火の始末を終えた少女は兔のぬいぐるみに抱きついて横になっていた。
起こそうと手を伸ばすが、少女も疲れていたのだろう、既に寝息を立てている。その安らかな表情に一瞬躊躇する、そして気づいた。
ハッ、と手は止まる。
月明かりの下、奴隷服が捲れて、涼しそうな白い尻が丸出しだった。
伸ばした手で自分の頭を抱える。
「……」
横目で見ながら自分の毛布をかけてやりつつ。
なんでこんなことになっているのか、溜め息を一つ飲み込んで思い返すことにした。