あのころの雪、今の雪
埼玉では珍しく降り積もった雪に、ぼくは悪戦苦闘していた。長靴も履いてこなかったぼくの足は、靴下の中までびっしょりと凍えている。
家まで後もう少し。痛くなる足をがんばって、前へ進めた。すると、白く濁った風景の奥で、誰かが僕に手を振ってくれた。
「まさし。まさし」
聞き覚えのある声に、ぼくは一瞬で痛みを忘れた。
雪煙の中から姿を現したのは、ぼくのお母さんだった。
ああ、こんな風に、お母さんはぼくを迎えに来てくれた。
ぼくが、冷たそうにしていると、お母さんは、「まさし、かわいそうに。冷たかったでしょう?」と言って、手を繋いでくれた。
ぼくはそれが、すごく嬉しかった。もう足の冷たさよりも、お母さんの手の温もりの方が強く感じた。
どうして、お母さんは、いつも厳しいのに、こんな時は優しくしてくれるの?
浴槽の中で、思い出が蘇り、僕は涙を零した。
いい思い出程、後に思い出して、今を後悔する。
風呂から出ると、一本の留守電が残っていた。
僕は、受話器をとると、留守電のボタンを押した。
「まさし、元気してる?風邪でもひいてない?今度、実家に戻ってきなさいよ。待ってるからね」
伝言が終わり、ピーという音が鳴った。
僕の目からは、少しだけ涙が零れた。
今度会った時は、お母さんにとびきり優しくしよう。
そしてたくさん会話をしよう。
幸せはいつだって、手の届くところにあって、気づかない。
お母さん、また会いに行くよ。
窓の外に目をやると、雪が降っていた。