小松シリーズ第一号 その7
【7】
そうそのころから変わっていなければ、小松のギャンブル嫌いは今も継続中のはずで、結果継続中だった。
ここから両者に目も当てれぬほどの惨劇になったので、抜粋して簡単にまとめると、小松は怒り狂い世の人がどれほど金を儲けることに必死になっているかを説教し、マンリはギャンブルを知らない初心なお子様はこれだからしょうもないと言い放ち、会は開始一時間半で両者に多大なダメージを残して終了した。
怒りの収まらない小松をこのまま家に帰すと、部屋に八つ当たりの被害が出る。カラオケで歌えるほど呑気でもなく、本屋で文章を嗜むほど冷静でもなく、ボーリングを楽しむには好き嫌いのレベルで小松が無理、たばこはお互い禁煙中、歩いて家路に向かうのが一番手っ取り早く安心だった。
廃ビルのシャッターの前にある古びた百円均一の自動販売機に小松はツカツカ寄っていき、缶コーヒーを二本買った。片方のブラックを僕に放り投げた。そのコーヒーを僕は開けずポケットに突っ込んだ。
「飲まねーの?」
三十分も歩いてたら小松でも機嫌をかなり直したが、それでもまだ不機嫌さを含んだ声ではある。
「夕方飲んだコーヒーが美味しくて上書き保存したくない」
「もう酒で上書き保存されたろ。不味い酒だったな」
「あぁ、違いない。やっぱ飲むわ」
指がかじかんでプルタブに指がヒットしないのを見かねて、小松が缶を開けてくれた。
「あんな不味い酒は飲みたくない。久しぶりにモテない男の会を招集しろよ」
「ダメだよ。どっかの誰かが元気づけたせいでみんな大学を卒業してからモテ出したんだから」
「そうだな。小諸が前、結婚したって、もう卒業して何年だ」
「三年だよ」
「三年もあれば、モテるようになるかぁ」
「うん、モテてないのは僕たちだけだ」
「いや、俺はモテてる。女の子と定期的に飲んでる」
小松は我こそはモテない渦に巻き込まれた童貞ではないと声高に主張した。
「でも長続きしないよね。単発だし」
「っるせぇ」
「まぁ、まずは定職に就くことだ」
コーヒーはもうほとんどなくなっていた。缶もぬるくて、そのぬるさが気持ち悪かった。
「お前もだろ?」
「僕は今大学院に行ってる」
「はぁ、初耳だぞ?」
「将来は研究者かな」
「どうだろうな」
気づくとそれぞれの四畳半がある部屋の前に来ていた。
「僕は明日学校だから」
「俺は明日フータいやハロワかな」
「頑張れよ」
「おうよ」
「またな(ね)」
僕を待つ四畳半へ私はまずい酒の余韻を身体に残しながら、フラフラと入って行った。
End
ここまでお付き合い下さりありがとうございました。
小松シリーズは書きだめがあるので、折り見て投下します。
これからも精進を重ねますのでよろしくお願いします。