小松シリーズ第一号 その6
【6】
「だいたいね、モテるアンタが何でここにいるの? 女の子と遊びに行けば」
大柄で優しい小諸が八海山片手に涙ながらにほろほろと話しかけていた。
「小諸、お前は分かっていない。こういう時に飲みに行こうかって女は俺のタイプではない」
「それはモテるやつの横暴な理屈だ」
テーブル向かいから飛んだ言葉を小松は手で制した。
「皆々様、男の本気はここぞという時に振るう武器でしょう! 私たちはデブスクソ女の前で裸になりますか?」
「ならねーよ、だからここでくすぶってるんだ」
小松は半泣きの観衆に優しい目を向けた。
僕はやれやれいつものやつが始まったと思った。モテない男の飲み会は小松の催眠術によって救済される。そして最後は笑顔で写真に収まり、次の日の朝に、「小松に騙された」という被害者がわらわらと発生する。
そして今度こそ小松にアッと言わせてやるといって、飲み会の案内が小松に行く。これを人は、<小松ループ現象>と呼ぶ。
「そう我々は恋い焦がれた人の前でこそ裸になって、全てをさらけ出すべきだろう」
「俺、真性包茎だから、さらけ出せないけど」
観衆からモジモジとむさい男が立ち上がって、恥ずかしそうに話した。小松は彼に優しい目を向ける。
「いい病院を紹介する。手術が嫌なら便利な器具もある」
「アーメン」
男は晴れた顔でペタンと座った。何がアーメンだ。
「私たちはモテないのではない。この世界のどこかで待っている姫を探しているんだ。私たちは好機を伺っているのだ」
「そうだ、そうだよぉ」
ある者は酒を片手に涙を流し、ある者は鮭茶漬けを大量に食らい、ある者はデザートをこれでもかと注文した。今風の言葉で言うなら、それはカオスであった。
「導師よ、一つ質問があります」
小松は優しい笑顔で応えた。
「何かな?」
「私はデブスクソ女であればあるほど燃え滾ってくるのですが、導師は何か女性に対して求めていらっしゃることはありますか?」
質問者も錯乱しているのか、何か辻褄が合っていない。でも、小松マジックにかかった者どもは誰も気にしない。
「私は好きな女性であれば、何も求めない。ただ一つを除いて」
「その一つとは?」
「私はギャンブルが趣味の女だけは無理なんだ」
「そのお心は?」
「たしなむ程度には良いというが、金を遊び道具にするのはだめだ。そういうやつは一円に泣くのだ」
その後はわいわいと小松を中心にして飲んで、記念撮影をして、次の日に心に憤怒の炎を宿すのだ。