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青い春  作者: 花菱巴
2/7

小松シリーズ第一号 その2

【2】



「キミ、ナニヲスルンダ」

「放せ、俺は一言物申したい。全国民の納豆嫌いの代表として!」

「ナニイミノワカラナイコトヲ、イッテルンダ」


 案の定、階段を下りた先の交差点で騒ぎは起こっていた。そこにはどうせ野次馬根性で集まっている大人たちに党員や関係者諸々、騒ぎの中心には大人に服を掴まれ暴れている小松。もうそれは目も当てれぬくらいの痛々しさで、僕は何も知らないと言って、この場から去りたかった。でも、小松は許してくれなかった。小松は呆然と立ち尽くす僕を素早く見つけては大声とオーバーリアクションで僕に訴えた。


「おい、お前も何か言ってやれ! さっき話していたローションの話でもしてやるんだ。それくらいしないと、この馬鹿どもには通じない」

「ナンダ、オマエモナカマカ。ケイサツダ。ケイサツヲヨベ」


 小松がこちらに叫ぶものだから大人たちの目は一斉に僕に向いた。小松はとうとうたこ焼きばかり食べているから脳みそが全部ソース味になったに違いない。いや、小松はしょうゆ味が好きだったな。そんなしょうもないことを考えてないで、やるべきことはあった。警察を呼ばれたら厄介だ。警察が来る前に回収しないと、小松が警察と対等に渡り合えるとは思えない。



「すいません。うちの連れ合いがご迷惑をおかけしまして、ほら小松帰るぞ」

 強引に小松のどちらかの腕を掴んだ。どっちか分かるほど、僕も冷静ではない。いつの間にか右手のたこ焼きのゴミは迷子になっていた。


「こらバカ、俺はまだこいつらにローションが何たるかを教示していないんだぞ。そんな中途半端なことしたら小松家の名に泥を塗ることになるんだ!」

 なぜ小松が納豆相手にこんな熱心に我が思考を語っているのはどうしても分からない謎だったが、確かに分かることはこの議論は大いに無駄だということだ。


「通してください。はい、ごめんなさい」

 小松の腕を掴み、野次馬をかき分け、集団の外へと歩みを進めた。小松はその手をふりほどこうとバタバタと抵抗している。

「小松家の男たるもの、男として正々堂々であれと言い伝えられているのだ。この敗走は小松家に泥を塗ることになるのだ! 離せ!」

「あぁ? 泥なんざ、既に君がもうべっとり塗っているよ。このまま僕が手を離したら泥では済まなくなるよ。小松はとうとう脳みそがたこ焼きに浸食されたか?」


「ナンダナンダオマエ」

 野次馬は押しのけたら退いたが、党員はどうもそうはいかないらしい。当たり前だ。国民への主張行為をよく分からないローションしか叫ばない男に邪魔されたのだ。僕なら警察へ突き出している。それで小松がどんなことになるかは知らないけど。


「すいません、こいつちょっと疲れてて、今度からよく注意しますので、すいませんでした!」

「お前らの顔は死んでも忘れねぇ。お前もいくら友達でもしていいことと悪いことがあるぞ」

 小松はくるりとスピーカーの周りの党員の方へと振り返り叫び、私をバシバシと叩きながら恨み言を吐いた。

「っるせぇ、黙ってろ! 皆さん、すいませんでした」

 小松に怒鳴り、たったとその場から小松を連れて逃げ出した。



 交差点から逃げ出し、いくつかの通りをまたぎ、路地に入ってから、やっとつかんでいた手を離した。大した距離じゃないのに二人とも肩で息をしていた。息は相変わらず白く、気温が寒さを感じさせることを明確に表している。


「寒いな」

 どちらが言ったのか、同時に言ったのかは分からない。だが、間違いなく二人の共通意見だった。さっきの騒ぎが記憶には新しかったが、それよりも寒さが上回ったのだ。


「喫茶店に入ろう」

「そうだな、ちょうど目の前にあるし」


目の前には無かった。あったのは看板で、看板には路地の奥と書かれていた。奥はなんだか暗くて、人の気のなさそうな雰囲気が漂っていた。それでもここからまた違う喫茶店を探すことに労力を割きたくなかったし、体の耐寒力も限界だった。

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